フランシス・ベーコン展の「越境する身体」

ベーコン

フランシス・ベーコン展のことを書いておきたい。東京出張の折、気になっていたので、時間ができて行ってみた。良かったのだ。なにか自分の中でのいろいろな考えがつながっていくのだ。

「フランシス・ベーコン展」(東京国立近代美術館 2013年5月26日まで)

実は彼のことをあまりよく知らなかった。ただ、彼の絵を見るとなんだか気になって仕方がなかったのだ。あのホラー映画のような崩れた輪郭、亡霊のような顔、動いてブレた写真ような絵…。


あらためてじっくり見てみると、枠組を超えて、物語を拒否して、「境界を越境しようとした身体」とでも呼べばいいのか…。人物の輪郭というものを彼は疑った。空間のなかでの静止した身体ではなく、空間をはみ出し、別の空間へと移っていくように、揺れていて、不安で、時間がそこにはあり、一定ではない顔がある。人間が一つの決まりきった顔や個性ではないことを彼は知っていた。空間の中に安定して存在していられるほど、強固な自我などどこにもないことを知っていた。あちらの世界へ抜けようとしていたり、多面的な顔を持ち続けたり、安易な物語に回収されないように動的な人間を常に描き続けた。

それは福岡伸一が言うところの細胞が変わり続ける「動的平衡」であり、村上春樹がもう一つ別の世界とパラレルに行き来するようなことでもあり、川上弘美の輪郭がにじんでいくような異世界との交流でもあり、黒沢清が描き続けるホラー的な存在の不確かさや曖昧さでもあり、自我の解体でもあるのだ。

だからたぶん、舞踏家の土方巽は彼の絵にインスパイアされたのだろう。そこには身体そのものがある。空間に収まりきらない、意味づけを拒否した身体の塊がある。人間の揺れがある。


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