「評価と贈与の経済学」内田樹×岡田斗司夫

評価と贈与

岡田斗司夫という男は、自称オタキング(オタクの王)。彼が"FREEex=「岡田斗司夫をFREE化させる組織」というのをやっていて、参加者が金を払って、岡田斗司夫と一緒に働くこくことができ、社員になるという塾のような疑似家族のような組織を作っている。仕事とは何か、人とどう関わることが楽しくやりがいのある仕事になるのか、などいろいろと考えさせられるユニークな試みだと思う。

この本は、岡田斗司夫が憧れの内田樹にいろいろ聞きつつ、二人が共通して感じている<共同体=疑似拡大家族>のあり方、必要性についての示唆に富んだ対談である。


オタクであり、若者文化に詳しい岡田斗司夫が、今の時代を「イワシ化する社会」と呼んでいて、流行やランキングに左右され、みんなと同じように怒り、パッシングする巨大な群れ社会であることを指摘している。そして若い人たちのことを、「自分の気持ち至上主義」と呼んでいるのが面白い。

ちょっとなにかあると「もういいんです」とすぐ言う。夢をあきらめたり、仕事をやめたり、恋人と別れたり。自分のなかの「盛り上がった気持ち」が最優先。「気持ち」なんて、あやふやなものなんだけど、その「気持ち」を補強するために、自分と同じような意見だけを集め、同調していく。ブログ炎上とかもそんな気持ちの同調圧力。

恋愛ももまた一度喧嘩したら終わりだから、喧嘩話をしないようにする。喧嘩しちゃうと「好き」という気持ちがもたない。「もういいよ」になる。

今の若い子たちは「誰かにいいように利用されること」を一番嫌う。欲望を持つと、利用されたり操られたりするから、欲望を意識したくないし、持ちたくない。だから草食化する。資本主義の欲望も彼らには通用しない。

そんな「イワシ化する社会」を内田樹は「脳化する社会」と言い、みんな頭で考えて、脳だけで行動するから、その選択が自分の生きる力を高めるか、生き延びる可能性を高めるかという吟味をしないで、ふらふらとマジョリティについてゆく、と指摘する。身体性を取り戻し、身体から送られてくる「こっちへ行った方がいいよ、そういうことをしないほうがいいよ」という生命についての情報を無視して、頭だけで考えるからだ…と語る。

そして二人が一致する意見として、今の時代の拡張型家族的な共同体の必要性について語っている。そこには、
1980年代以降のイデオロギーの「自己実現、自己責任」主義が大きな影響を及ぼしている。

内田:多くの人たちが、今は親族共同体にうまく統合されずに、他者との共生能力が損なわれている人も多い。
1980年代以降のイデオロギーは、他人がおなじ家のなかにいるせいで、可動域が制約される、自由なふるまいが許されない、自己実現が妨げられている、だから「家族は解体すべきだ」という考え方を流布した。自分の欲望を実現すること、好きな生き方をすることが人間の最優先の目標だと言われてきた。

しかしそんなイデオロギーは最近のこと。あらゆることに優先するのは「集団で生き延びること」だった。単独で「誰にも迷惑をかけない、かけられない」生き方を貫くより、集団的に生きて「迷惑をかけたり、かけられたり」するほうが生き延びる確率が圧倒的に高い。

親族が解体し、地域共同体が解体し、終身雇用の企業のような中間的集合体も解体して、最終的にみんな孤独になってしまったのは、「ひとりでも生きていける」くらいに社会が豊かで安全になったから。しかし、そんな平和と繁栄は歴史的に見ても例外的なもの。そんなのんびりした時代は終わってしまった。


ゲマインシャフト(地縁・血縁の共同体)とゲゼルシャフト(特定の目的で形成された共同体)とは別の第3の共同体=疑似拡大家族の可能性を二人は模索する。

その共同体で必要なのは、「誰かの世話をしても、その世話が返ってくるかわからない」贈与の概念である。内田お得意の「贈与と反対給付」の本来の経済活動の話になる。「資源を持っている人」と「持っていない人」との格差の問題ではなく、「資源を持っている人」がパスの流れの中にいて、「持っていない人」は一度来たパスをそのまま抱え込んで、それを次の人に出さないので流れが切れてしまうことが問題なのだ。「ワンタッチで次々とパスを出し合う関係」こそが、新たな共同体には求められる…と。

岡田は「働く理由なんてない。働くだけ損だ」と思うような「生きる根拠」を見失った人たちへ、彼らに自信や根拠
を与えることよりも、他人に何かを与える供給者の側に立つことの必要性を実感する。人間は強いものに導かれて、強くなるのではなく、弱いものをかばうことでしか強くなれない。生きる根拠がないと悩んでいる人たちは、他人に生きる根拠を与えることでしか、その悩みは解消されない、と。

自己責任、自己利益の追求ではなく、惜しみなくパスを出し合うこと、人間の公民性、市民的成熟。そういうことが優先的に配慮される環境。岡田斗司夫は、それを「評価経済」と呼ぶ。インターネットを悪口ではなく、評価するツール、「ほめる」メディアに軸足を移すことで、社会的影響力も増すはずだと二人は語り合う。

また、「アメリカの病気」について語らている場面も面白い。挫折して、ギリギリまで追い詰められて危機的状況から脱け出す「リカバリー力」の凄さこそ、アメリカの国力であり組織力だけど、その「危機を未然に防ぐ」という「予防」の発想がアメリカにはない。複線ではなく単線の成功社会。そんなアメリカをグローバルスタンダードと呼ぶのはやめて、日本は環境が豊かなんだから、経済成長とは別の新たな希少価値としての「地上の楽園」を目指せ、という話。手触りの温かい、きめ細やかなサービスで国際的な評価が得られるような。

内田樹は、カルト的映画監督ジョン・ウォーターズが、アメリカ東部ボルチモアの不良少年少女たちの拡大家族「ドリームランダース」を理想としている。それぞれに心身に深い傷を負って、社会の周縁に吹き寄せられた人たちがジョン・ウォーターズ監督のまわりに集まって、愉快で悪趣味でコマーシャルな映画を作っている。

非力で、貧しく、なんの取り柄もなさそうな人たちでも、ひとつところに集まると、その出会いから思いがけない「ケミストリー」が起きて、想像を超えた素晴らしいパフォーマンスが達成されるという楽観的な共同体観。

「あとがき」で内田樹は、その共同体論と共同体実践は、時代の必然で歴史的状況が要請したものだと書いている。その「危機」はかなり深刻だと。「自分が生き延びるための共同体」について考えさせられる本だ。

でも、21世紀に入って、そういうシンプルな生き方(なんでもお金で解決できる)はもう許されなくなったことを僕たちは思い知りました。第一に「金がない」から。第二に「ほんとうに必要なもの―生き延びるために必要なもの(例えば、危機の時に「弱い自分」を置き去りにしない仲間ーは金では買えない」ということがわかってきたからです。そして、その前段には、「自分を置き去りにして、浮足立った人々がわれさきに逃げ出していく」情景についての想像がだんだんリアルになってきたという事実があると思います。

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