「勝手にしやがれ!!英雄計画」黒沢清

英雄

雄次と耕作の便利屋コンビが思わぬトラブルに巻き込まれていくシリーズ第6弾、そして最終作。ヤクザや奇妙な登場人物たちと追いつ追われつの荒唐無稽な活劇を描いてきたこのシリーズ、4作目あたりからだんだんそのナンセンスさが際立ち始め、お金(麻薬)が人物たちの間をグルグル回るだけという人生の哲学的命題が描かれれつつあったが、最終作にして「正義=イデオロギー」のインチキぶりを揶揄する政治的映画として黒沢清はラストを締めくくった。

冒頭、「なんのために君はそれをなすのか」という人生論的哲学的命題が、その日暮らしでいい加減に生きている雄次(哀川翔)と耕作(前田耕陽)に出される。「お金をのため?」「贅沢をするため?」という問いは空回りし、雄次は「ただやりたいことをやっているだけよ」とつぶやく。

いつものようにヤクザとの追いかっこをしている時に、二人の前に現れた青年・青柳(寺島進)は、昂然とヤクザが自分にぶつかってきたことに抗議をする。「正義」のために。いつもヤクザ役をやっている寺島進が、信念の青年役であるのが笑える。「ヤクザに無茶を言っちゃいけない」と大人ぶって青年に忠告する二人だったが、青柳青年は「正義」のために自分の信念を曲げないとキッパリと言うのだ。かくして無目的に生きている二人の前に「正義」という基軸で行動する青年が物語を動かしていく。

青柳は町内会に住むヤクザ雨宮(清水宏)を町から追い出そうと行動している。雨宮がヤクザだというただそれだけの理由で。町の「正義」と「平和」を守るのが、彼の信念なのだ。「雨宮さんは、悪い人じゃないよ」という町の声も聞かれる中で、青柳は些細な雨宮の悪事を暴きたてる。そして町内会の人々を巻き込んで、デモまで組織するのだ。そんなとき、雄次は雨宮から秘密を聞く。「実は俺は本物のヤクザじゃないんだ」と。ヤクザのふりをしたヤクザ。町内会のデモ隊は寄せ集めだけあって、あっさり解体し、孤独な「正義」の戦いに追い詰められていく中で、青柳青年は自作自演でピストルに撃たれる被害者を演じる。再び、町内会はヤクザの仕業だと怒りが盛り上がり、ヤクザのふりをしたヤクザの雨宮は、ヤクザとして町を出ていく。その説得役としてヒーローに祭り上げられた雄次。町の浄化を政治的に目論む国会議員(藤田敏八監督)まで登場し、騒動が政治的に利用されていく。

まさにイデオロギーとレッテル貼りの共同幻想の政治的対立。悪だと思われていたヤクザはニセモノで、正義の信念の人は、味方をも騙す策略家、悪を退治したヒーローは、実は何もしていなかった…。政治的幻想に振り回される人々。

物語は町内会の浄化運動が過激化し、浮浪者はゴミのように扱われ、居場所を失っていく。青柳青年に罪を着せられた雄次は、町を出ていき、新宿の地下街の浮浪者たちのヒーローになる。町の浄化作戦と浮浪者排除の現実が揶揄されつつ、町内の対立はますます政治的になっていく。浮浪者を排除する権力と浮浪者たちを守るデモ隊の対立。そこへ再び帰ってきたヒーローの雄次。強制執行で、町の人々の砦である町内会館は解体されるが、権力の手先となった青柳は、雄次たちによって、ゴミまみれにされる。彼が排除しようとしたゴミになるのだ。これまで、このシリーズで登場人物たちが、何度もゴミにぶつかっていたことが、ここにきてつながる。ゴミとは彼ら自身であり、ゴミにまみれつつ生きることの意味。正しいものや美しいものの序列があるのではなく、ゴミにもまた存在理由と正しさがあるのだ。かくして、ラストは銃声と花火が飛び交う中で、二人はスモークの闇夜を駈けだす。そして、このシリーズの新のヒロインである洞口依子のつかの間の夢であるかのような「風」となるのだ。最後は、このシリーズらしい荒唐無稽さだが、金も権力も欲望も正義もグルグル回るだけ…と無化してきた二人は、ニセモノの銃撃戦のなかで幻となって消えていった。


製作年:1996年
製作国:日本
配給:ケイエスエス
監督:黒沢清
脚本:大久保智康
企画:伊藤靖浩 神野智
製作:須崎一夫
プロデューサー:伊藤正昭 下田淳行 田口聖
撮影:喜久村徳章
美術:芳野尹孝
音楽:トルステン・ラッシュ
キャスト:哀川翔、前田耕陽、寺島進、黒谷友香、清水宏、藤田敏八、清水大敬、洞口依子、大杉漣

☆☆☆☆☆5
(カ)
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テーマ : TVで見た映画
ジャンル : 映画

tag : ハードボイルド ☆☆☆☆☆5

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プロフィール

Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
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オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
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