「おどろきの中国」橋爪大三郎×大澤真幸×宮台真司

中国

尖閣諸島問題で、いま、日中関係は悪化の一途をたどっている。我々日本人は、中国という国についてどれだけ知っているのか?毛沢東が死んで間もない1980年には、日本人は中国に対して「親しみを感じる」という人が8割もいたという。その後、中国への親近感は下がり続け、今や好き嫌いに比率は逆転し、「親しみを感じる」人は2割程度、逆に8割の人が「親しみを感じない」国だと答えるようになった。1989年ころ、天安門事件の影響で、親しみ度は下がり、2004年のサッカーのアジアカップで反日暴動があった頃、親しみ度はさらに下がり、2010年の尖閣事件で対中感情は最悪のレベルになっている。

かつて日本は中国から多くのことを学んだ。漢字を母国語に取り入れ、漢詩を書き、仏教も儒教の精神も中国から取り入れた。江戸時代ごろまでは、日本の知識人は中国をリスペクトさえしていた。しかし、戦後の日本のリスペクトはアメリカに代わった。日中戦争を経て、南京虐殺などの日中の歴史問題は、今なお二国間では大きなしこりが残っている。政治家の靖国参拝をめぐっては、いつも大きな外交問題になる。今や世界第2位の経済大国である中国。アメリカも中国の存在を無視できない。日本は、これから中国とどのようにつきあっていくべきなのか。それを考える上で、とても示唆に富んだ鼎談である。奥様が中国人であり、中国研究のスペシャリストでもある橋爪大三郎さんに、二人の社会学者(大澤・宮台)がいろいろと質問していく形で、鼎談が行われている。

第1部 中国とはそもそも何か?
 2200年前、秦の始皇帝のとき、統一国家となった中国。それはヨーロッパの「国家」という物差しでは測れない。四大文明は農業の発達が小麦をベースとして始まり、その一つである黄河文明は、世界最大の平地を使った小麦の生産地となった。中国に比べると、ヨーロッパは政治的統合よりも、宗教的統合が先行した。キリスト教やイスラム教が地域のアイデンティティとなった。それに比べると、中国は、小麦文明が生まれるとすぐに、政治的な対立抗争がおこり、諸子百家が生まれた。ときどきの統一政権は、統治のイデオロギーや政策のオプションを選択しながら採用していった。法家、儒教、仏教や道教。中国は政治統一が基本で、政策オプションは選択の対象なのだ。ヨーロッパのシステムとは順番が逆。だからこそ、儒教を捨てて、三民主義を採用したり、マルクス主義を採用したり、マルクス主義を捨てて改革開放政策を採ったりできるのだ。

法家の法とは、平等で厳格な信賞必罰の原理。命令通りにやれば褒美を与え、反したものに罰を与える。
儒家(儒教)は、家族や親族の秩序に基づくイデオロギー。君主への忠誠、家族親族の年長者への服従=「忠」。とりわけ父への服従=「孝」。「忠」よりも「孝」を優先。儒教は、政治権力をサポートする。政治の安定が何よりも大事。政治的統一とは、強大な軍事力の独占であり、強力な官僚機構の支配。軍隊は自立せず、政府に依存している。

ヨーロッパの民主制を支えるのは個人の自立。自立した個人を生み出すのは共同体の自立。だから連邦政府といえでも、各州の自立を脅かせない。中間集団が政府よりもえらい。
中国は、中間集団は存在してもいいが、政府(行政官僚)の指導に従い、血縁を上回ってはならないという上と下のはさまれた限定的な中間集団。中国はもっとも安全保障を重視する。

一神教的世界では、神は永遠不変。神は時間を超越し、人間は世代交代するが、契約は永遠不変。
中国にはGodはいない。そのかわりに「天」がある。天が政府に統治権を授与する。

さらに中国では、ランキングが重要。序列や座る位置など厳密に決まっている。能力主義でありつつも上司の信任が大事。部下は上司にサービスをする。上司は多くの部下の面倒をみて自分のパワーを高め、上を目指す。

第2部 近代中国と毛沢東の謎
「天」は、皇帝を中心とした中華思想の統一性に有効に作用するが、国民意識とは関係ない。天の代替物としてマルクス主義がある。毛沢東は皇帝であり、一般大衆に政治参加を呼びかけるという皇帝がやらなかったことをやった。

西欧キリスト教文明は、神が絶対権力を持つ人格であり、政治権力者が何をするのか見守っている。権力者は神に対して責任を持ち、キリスト教の原理原則に対して従う責任がある。
中国の天は、人格がない。最後の審判もなく、天命によって統治権力を人に与えた後は、チェックがない。丸投げ。

中国の社会組織の原則。1、自分が正しくて立派。(自己主張)2、他者も自己主張している。3、自己と他者が共存するために枠組みが必要。その枠組みとは、順番。争いを避けるために、誰が一番偉いか一番から順番をふる。天が毛沢東に権力を丸投げし、毛沢東に個人的欠陥があっても、承認する。そしてあたかも、欠陥などないかのように、彼に従う。日本社会にあっては、中心は空虚だと驚かれるが、中国においては、中心は必ず実質がある。

文化大革命で、中国の伝統をことごとく否定した。文革が伝統を無化してしまい、更地のようなものを作ったおかげで、今日の改革開放が可能になった。文革によって、伝統力の拘束が低下し、中国人の行動に自由度が生みだされた。文革とは、資本主義の文化を廃して、社会主義の文化を創ることだったが、実際には文革のおかげで、短期間の「資本主義化」がうまくいった。

第3部 日中の歴史問題をどう考えるか
日本側に中国へのコンプレックスがあるとき、日中関係は安定する。
日本のアジア政策には、ナポレオンのヨーロッパ征服の時に旧体制を打倒した「自由・平等・博愛」のような理念がない。
ヨーロッパの近代主権概念と、中国の朝貢関係は違う。天を中心とした秩序は、世界全体に広がっており、内と外のような領土的境界の画定は必要ない。
日本人自身が中国侵略を理解していない。

第4部 中国のいま・日本のこれから
中国はアクティブな政治的な層と圧倒的にパッシヴな人民との二重構造。政治家や官僚が人民に対して説明責任があるとは思っていない。だからグローバルな社会への説明責任も果たす必要を感じない。だから中国は、覇権国にはなれない。
中国は、日本よりもアメリカを重視しているし、アメリカも日本より中国を重視している。日本のことは後から決まる。まずはアメリカの対中国関係をどうするか、中国の対米関係をどうするかが最初に決まる。日米関係は、米中関係の付属物にすぎない。

中国を理解する能力は、アメリカ人よりも日本人の方がアドバンテージがある。その有利な立場を使って、アメリカが中国との関係を理解するには、まず日本と仲良くしなければならないんだという構造を作ること。日本が中国のインターフェイスになること。そして、中国に対してアメリカのカードを切れること。中国にとって、アメリカと仲良くするには、日本と仲良くするほうがコストが安くつき、アメリカも中国と仲良くするには、日本と仲良くした方がコストが安くつくというポジションを得ること。

中国が困っていることを、日本がよく分析して、理解して、中国に代わって世界に向かって言ってあげること。中国のよき理解者になる。それが日本の利益になる。

嫌悪するのではなく、リスペクトしつつ、中国が日本をどう見ているのか?理解しようとすることからしか対話は生まれない。
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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