「ホーリー・モーターズ」レオス・カラックス

モーターズ

久々のレオス・カラックスである。オムニバス「TOKYO!」(2008)も見逃したので、「ポーラX」(1999)以来だ。正直、この映画はあまり覚えていない。やっぱり最初に観た「ポンヌフの恋人」の印象が強い。そしてアレックス3部作と言われる「ボーイ・ミーツ・ガール」「汚れた血」。寡作な監督だけに、この新作は見逃してなるものかと、都合をつけて観に行った。

冒頭からゾクゾクする映像だ。ベッドに寝ていた男(カラックス自身)が起きる。ベッドの隣には犬が寝ている。ホテルのような一室。窓の外には着陸する飛行機の光。さらにカモメの鳴き声や船の汽笛の音が聴こえる。ここは飛行場なのか?港なのか?男が壁の扉のようなものに鍵を入れる。男の指が義足ならぬ義指!のように変形しており、鍵穴にその義指を入れる。明滅する光。そして男が歩いていくと劇場のような場所に出る。顔のない観客の顔、顔、顔。そして黒い犬がゆっくりと通路を歩いてくる…。この冒頭の意味不明の映像の官能性に、もうシビれてしまった。な、なんなんだ!この映像は!!!

画面は変わり、銀行家の金持ちの男が家族に見送られ、大きなリムジンに乗る。そして今日の予定を秘書&運転手の女性に聞く。最初のアポ(役)のファイルを見る男。そして、そのリムジンは男が11人の人格に変身するための不思議な移動する舞台楽屋となる。リムジン内で特殊メイクをし、着替えをする男。富豪の銀行家、物乞いの女、怪物、モーションピクチャーの衣装で宙を舞い、女と絡み、子供を心配する父親にもなり、殺人者も演じる。カラックス的奇怪な者たちである。これは仕事なのか?カメラで撮られて演じる舞台?誰かの人生?現実ではなく近未来的なフィクションなのか?自分そっくりの男にナイフで刺されて死んだと思ったら、また別の人格に車の中で変身している。銃撃戦も映画の一場面のように、再び生き返る。あるいはベッドで姪に看取られながら死ぬ老人を演じたりもする。

さらに途中のインターミッションでのアコーディオン演奏で行進しながらの音楽もご機嫌な感じ。はたまた同じような演じる仕事をしている元恋人の女と再会し、彼女は突然、ミュージカルのように英語で歌い出す。「あの頃を私たちは誰だったのか?」と。そして、廃墟になったホテルの上から男と一緒に飛び降り自殺。演じる死と現実。どれがいったい本当の自分なのか?車の中?元恋人とのつかの間の時間?演じることで疲れていく男。それはカラックス自身のフィクションへの渇望と疲労なのか。謎は最後まで謎のままだ。男が真夜中に帰り着いた自宅には、奇妙な動物たちまでいるし、エンディングはリムジンたちのぼやきまである。身体の躍動の美しきフィルムからデジタル時代へのぼやき。

まったく観客を最初から最後まで驚かすのが好きな監督だ。奇をてらう演出を面白いと観るか、やり過ぎと観るか。かつてのヒリヒリした青春映画の疾走感は消えうせ、どこか余裕の演出が感じられる作品。「人生は舞台そのもの」って、あまりにも単純なお話だけど、それぞれのエピソードは、レオス・カラックスらしい異形な者たちの妖しさに満ちているし、生と死が混在している。そして、なによりもパリの夜の街が美しい。私とは何か?人間とは何か?異形なるものたちの身体とその行為の美しさ。演じることは、その身体の行為の美しさを追求することである。痣のある男(ミッェル・ピコリ)に問われて答えたように、美しき行為(身体運動)こそが、カラックスにとって撮ることの意味なのだろうし、その官能的なワンシーン、ワンシーンを何よりも楽しむ映画だ。



原題 Holy Motors
製作年 2012年
製作国 フランス・ドイツ合作
配給 ユーロスペース
上映時間 115分
監督:レオス・カラックス
脚本:レオス・カラックス
撮影:カロリーヌ・シャンプティエ
美術:フロリアン・サンソン
編集:ネリー・ケティエ
キャスト:ドニ・ラバン、エディット・スコブ、カイリー・ミノーグ、エバ・メンデス、ミシェル・ピッコリ、エリーズ・ロモー、ジャンヌ・ディソン

☆☆☆☆4
(ホ)
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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