「春婦伝」鈴木清順

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鈴木清順である。僕が清順映画で好きなのは、なんといっても『殺しの烙印』だ。ご飯が炊ける匂いが何よりも好きな殺し屋の宍戸錠。荒唐無稽な活劇映画の最高峰ではないかと秘かに思っているのだが、ずいぶん昔に観たっきりだ。観なおしていないので、詳細は忘れてしまった。もう一度観なきゃ。清順映画と言えば、『けんかえれじい』や『東京流れ者』などいろいろ有名な作品はあるが、後期の耽美的作品、浪漫三部作の一本『ツゴイネルワイゼン』がやはり素晴らしい。内田百閒の「サラサーテの盤」を映画化したこの夢と幻の映画。ドーム式移動映画館で観た強烈な印象は忘れられない。伝説の鈴木清順が同時代に帰ってきた幸福を感じた。

さて、この『春婦伝』だが、昨今、橋下氏の「従軍慰安婦」問題発言などいろいろと話題を呼んでいる「慰安婦」が題材だ。中国大陸、天津の売春婦宿が舞台で、田村泰次郎の同名小説である。日本人女性が日本軍の兵隊たちに春を売る施設。10人の売春婦が1000人の兵隊を相手にする。一人で100人の計算となる。中には朝鮮人の売春婦も一人いるが、日本人の兵隊には人気がない。疲れた兵隊たちが「心と体の洗濯」と称して、売春婦宿で行列ができる。売春婦たちは朝から晩まで兵隊たちの相手をし続ける。過酷な生活ながらも、たくましき売春婦たちが描かれている。

そして、この映画は、一人の売春婦と若き兵隊との純愛物語が中心となっている。「一時から四時半までが兵隊。七時までが下士官。八時以降が将校」と言う規則のなかで、副官(玉川伊佐男)に気に入られた春美(野川由美子)は、権力によって蹂躙される。しかし、気の強い売春婦である春美は、「あんたの権威なんてズタズタにしてやる」と呟き、副官の見張り役の三上(川地民夫)を誘惑して、副官に反抗させてやろうと策略を練る。しかし、真面目な兵隊であり、性経験もなかった三上を春美は本当に好きになってしまう。三上が戦地で倒れても、春美は単身助け出し、二人は八路軍の捕虜になる。ディドロの「哲学断章」を読むインテリ兵士が、日本軍の姿勢に嫌気がさし、逃亡兵になり、八路軍に加わっている描写もある。最後は、部隊に戻ってきた三上が軍法会議にかけられそうになるが、春美と二人で心中して果てるという壮絶な話だ。

いわゆる反戦映画であり、戦争の現実と日本軍の権力構造、それに立ち向かう愛の姿が原作に忠実に描かれている。中国大陸の荒野を一人走る野川由美子の姿が印象的だ。ある意味、愛の狂気だ。その彼女の強い意志を描く清順節は随所に出ている。ワンカットの中で、春美のベッドの相手役の男が過去の男と入れ替わる実験的な映像。野川由美子の表情のカットをストップモーションで重ね、スローも多用される。春美の妄想が挿入されたり、セット転換や照明の明暗の演劇的演出など、いろいろな工夫も見られて楽しい。

ラスト、朝鮮人の売春婦に「日本人、すぐに死にたがる。生き抜く方をもっと伝えよ。死ぬなんて卑怯だ」と言わせるのが印象深い。
ただ題材が重い戦争の現実なだけに、清順の荒唐無稽な幻惑させる演出があまりマッチしているとは言い難い。



製作年 1965年
製作国 日本
配給 日活
監督:鈴木清順
脚色:高岩肇
原作:田村泰次郎
企画:岩井金男
撮影:永塚一栄
美術:木村威夫
音楽:山本直純
キャスト:川地民夫、野川由美子、石川富子、玉川伊佐男、今井和子、初井言栄

☆☆☆3
(シ)
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戦争の狂気

鈴木清順監督の反骨精神が滲み出た作品で戦争の狂気が女性の眼を通じて描かれていたー。幻想か現実か錯綜する辺りや表現主義的な清順タッチがシビヤに戦争を直に告発するというよりは、個人の感性を通じて受け入れがたい軍隊組織や戦争の不条理をパロデイ化しているのかも知れない。

Re: 戦争の狂気

>PineWoodさま

コメントありがとうございます。安保法案がゴリ押しで可決されるなか、時代の空気がどう変わっていくのか?気になるところですが、表現者としての鈴木清順の反骨精神は、単なる反戦映画に終わらせなかったようにも思えますね。組織への反発、人間の幻想と狂気。いつの時代でも冷静に時代を見つめる目が必要ですね。
プロフィール

Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
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