「蛇淫」中上健次

蛇淫

長谷川和彦監督の映画『青春の殺人者』の原作が中上健次の『蛇淫』である。その短編も含む6作品の初期短編集である。中上健次が描いてきた出自の場所=「路地」を背景に、暴力、性、血縁の根源的で濃密な人間存在が浮き彫りとなる。

特に強調されるのは、「火」と「水」のイメージ。「血」は昂ぶり、荒ぶる暴力が抑えられないまま、「火」を呼び寄せる。そこには父親から受け継いだ「血」の繰り返しがあり、女の嘘=幻想に惑わされる混乱がある。「家に火をつけて逃げよう」とするのは、『蛇淫』のラストの言葉だし、『水の家』の刑務所から出てきた富森は、復讐のため火をつけて火事に起こす。『荒神』の女を殺してきた男は、消火器を売るセールスマンを騙り、自らの暴力衝動で老婆の殴り殺し、死に場所を求めて海辺を彷徨う。「水」とは、欲望としての「火」を鎮めるものであり、雨や川、海が描かれる。それは、女の愛や癒し、休息、そして「死」でもある。「火」は、「血」の昂ぶりであり、生きる実感ともいえる得体のしれない暴力衝動だ。

親殺しを描いた『蛇淫』のなかで「母の性器の形がパンティに浮いている」という表現はドキッとする。死体の母の太ももとパンティ。「あの女 淫乱なんよ。蛇なんよ」と母に恋人のことを罵られる。その女の性の闇と、その闇から生まれた自分の命の不確かさ。

そんな中上健次的人物たちの渇きや欲望、そしてその衝動を抑えきれない理不尽さを抱えつつ、生きることの苦悩と死に場所を求める彷徨…。どの短編も、そんな生きることの凄みが感じられる小説だ。それは、今の時代の軽さや薄っぺらさからは、遠いもののように感じる。
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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2011年映画ベスト10
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    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
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    10,「シリアスマン」
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    3,「あぜ道のダンディ」
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2009年映画ベスト10
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<日本映画>
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