「火まつり」柳町光男

火まつり


海と山に挟まれ紀州・熊野、海洋公園建設で揺れる町を舞台に、海の民と山の民が対立する物語を、中上健次の書き下ろしオリジナル脚本を柳町光男が監督した作品。柳町光男は『19歳の地図』に続いての中上健次作品だ。『さらば愛しき大地』など地方の町を舞台にした骨太の人間模様を描くことで定評のある柳町光男監督だが、このところあまり映画を撮っていない。どうしているのだろう。残念だ。

ちなみに中上健次原作ものでの傑作は神代辰巳監督の『赫い髪の女』であると僕は思う。

さて、この『火まつり』だが、山の民、樵の達男(北大路欣也)が中上健次的な男を体現。タブーを恐れぬ乱暴者であり、子分の良太(中本良太)を連れて猟銃で猿狩りをしたり、鳥や猿を獲る罠を山に仕掛ける。「山の神さん、オレの彼女じゃ」と言いながら死んだ鳥の血を肌に塗りたくる男。そして、弟分の漁師(安岡力也)と海の神の聖域でタブーを犯して泳いだりする。そして、海の民からワルと目をつけれらている。何者かがハマチの養殖場に重油をまいて、死んだ魚が浮かび上がる事件が起きる。海の民は、達男の仕業だと疑う。結局、誰が犯人かは明らかにされないままだが、山の民と海の民の対立が深まっていく。

12歳の時に達男の女になったという基視子(太地喜和子)とは、獣のように夜の船上の海で交わる。太知喜和子は、若い良太や小金稼ぎの三木のり平とも関係を持つ男を手玉に取るような女だが、達男とはいつまでも恋人関係のようだ。

山の神と交わるような男、達男は自然とともにある存在。自然から命を奪い、その命とともに生きる男。突然、豪雨が降って山仕事を中断した時も、一人、森に残り山の神と交感し合う。山の霊気、自然の美しさが見事に田村正毅のカメラで捉えられている。

ただラストは唐突であり、衝撃的だ。海中公園建設のために自宅の土地を売り払う相談で、達男と家に親族が集まった時、猟銃の音が港に響く。「なんだろう」と訝る港の移動販売車の男(伊武雅人)や村の人たち。達男は、妻や母、子供さえも撃ち殺し、最後に猟銃で自殺してしまうのだ。海中公園建設という自然が壊されることと、この一家心中がどう関係しているのか、ハッキリとは描かない。達男の突然の内に向けられた暴力。それはこの海と山に囲まれた美しい町の未来を暗示するような悲劇的な結末である。

山の民と海の民が反目しあいながら、接する港。露天商の鍛冶屋がいて、移動販売車でモノが売られ、浜のかあさんたちが網を繕う。若者たちは、ラジカセで曲をかけて踊り、バイクで暴走する。山の民はトラックに乗って山へと向かうのを、海の者たちは港で作業しながら、目で追う。そんな海の民と山の民が接する村。そこに押し寄せる開発の波。自然に仕掛ける罠と生贄。勇壮は火まつりは、自然への畏敬と人間の業が描かれている。そんな自然と人間の共犯関係は、開発という人間同士の経済の争いに変質し、どこか自然そのものをなおざりにされてしまったのかもしれない。

中上健次的神話的宇宙=自然と人間たちの関係を描いているのだが、どこか人間同士の葛藤が弱く、ドラマがあまり浮き彫りにならない。だから、ラストは唐突であり、もの足りなさが残る。

製作年 1985年
製作国 日本
配給 シネセゾン
上映時間 125分
監督:柳町光男
脚本:中上健次
製作」清水一夫
撮影:田村正毅
美術:木村威夫
音楽:武満徹
キャスト:北大路欣也、太地喜和子、中本良太、宮下順子、安岡力也、三木のり平、伊武雅刀、小鹿番、藤岡重慶、小林稔侍、左右田一平、菅井きん

☆☆☆☆4
(ヒ)
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