演劇「て」 劇団ハイバイ 岩井秀人

て

注目の若手の演劇人の芝居が札幌であるというので行ってきた。
岩井秀人作・演出、劇団「ハイバイ」の「て」という作品だ。ホームページによる岩井秀人の紹介は以下の通り。

2003 年ハイバイを結成。
2007 年より青年団演出部に所属。
東京であり東京でない小金井の持つ「大衆の流行やムーブメントを憧れつつ引いて眺める目線」を武器に、家族、引きこもり、集団と個人、個人の自意識の渦、等々についての描写を続けている注目の劇団ハイバイの主宰。2012年NHKBSプレミアムドラマ「生むと生まれるそれからのこと」で第30回向田邦子賞、2013年「ある女」で第57回岸田國士戯曲賞を受賞。代表作「ヒッキー・カンクーントルネード」「おねがい放課後」「て」。


青年団出身ということで、僕は平田オリザの影響をなんとなくなく感じた。現代口語演劇風にあり、役者の台詞回しは、いたって静かで日常的だ。声を張り上げてツバ飛ばしながら早口でまくしたてるようなことはしない。始まりも静かだ。もちろん、喧嘩などで大声で怒鳴り合う場面はあるが、基本的に日常的な立ち振る舞い。そして、登場人物たちが並列的なのだ。主役のキャラクターが強くあって、それを軸に見せていくのではなく、あくまでも人間と人間の<関係>を重視する。誰と誰が会話する時に、人はどういう変化が起きて来るか。相対する人によって人は変わる。そのことに敏感なのだ。だから、登場人物たちの重要度も同じぐらいなのだ。会話が並列的、同時進行的な演出もあったり、中断という手法があったりする(冒頭の葬儀の場面など)。
そして何よりもこの「て」で特徴的なのは、物語を2回演じるということだ。視点を変えて2周まわるような演劇。観客と観客を向かい合わせに座らせ、その間にステージがあり、1回目と2回目は位置を反転させて演じられる。

この作品は、ひきこもりの経験もある岩井秀人氏の自伝的体験に基づいたものだそうで、本人いわく、75%程度は自分の家族で実際に起きた現実らしい。それもちょっと驚いたけれど。認知症の祖母の死をきっかけに、バラバラだった家族が集まる2日ぐらいの出来事だ。

時間の使い方が面白い。葬儀の場面から始まって、前日の祖母の家に家族が集まってくる場面へと移る。最初は、次男の視点で物語が展開する。再び葬儀のシーンとなり、続いて母の視点で同じ時間(物語)が繰り返される。次男から見た兄と、母から見た兄は当然、描かれ方も違っており、そんな視点によるズレがこの演劇の面白さだ。父の理不尽な暴力とそれぞれの家族の受け止め方。そして家族がもう一度集まることへのそれぞれの思い。みんなそれぞれの物語があるということだ。

ここであらためて描かれるのは、関係や視点によって見方が違うということだ。真実は一つではなく、視点の数だけ真実はある。絶対的な視点を相対化する作業が行われている。それは、かつての演劇とは明らかに違う。変わってきている。主役のキャラクターや独特の世界観を創出し、グイグイとその独特の世界観に観客を誘うタイプの演劇ではない。観客に一度信じ込ませた嘘を、もう一度裏返して、別の嘘を提示する。強引に不思議なる迷宮の世界へ誘うのではなく、あくまでも多面的であり、理性的で相対的なのだ。唐十郎とも寺山修司とも別役実とも清水邦夫も野田秀樹とも北村想ともつかこうへいとも違う。やはり平田オリザ以降の世代という感じがする。

これは、先日観た映画、三宅唱の「Playback」の描かれ方とも共通する。信じ込ませた嘘を相対化させて、ズラすことで客を迷宮に誘うのだ。時間が繰り返されるという手法が同じだったので、ある種の世代的傾向と言えるのかもしれない。彼らは<大きな嘘(幻想)>を信じられなくなった世代なのかもしれない。そこが面白かった。


【作・演出】岩井秀人
【出演】岩井秀人、上田遥、永井若葉、平原テツ、青野竜平、奥田洋平、佐久間麻由、高橋周平、富川一人、用松亮、小熊ヒデジ、猪股俊明

スポンサーサイト

テーマ : 演劇・劇団
ジャンル : 学問・文化・芸術

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


twitter 719hideyosi

最新記事
お気に入り度
テレビドラマ「カルテット」
映画あいうえお順
カテゴリ
映画ジャンル&☆ランク
映画監督別
アキ・カウリスマキ
アラン・レネ
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
アルフレッド・ヒッチコック
アンドレイ・タルコフスキー
イエジー・スコリモフスキ
イザベル・コイシェ
ウェス・アンダーソン
ウディ・アレン
ヴィム・ヴェンダース
エドワード・ヤン
エミール・クストリッツァ
エリック・ロメール
オーソン・ウェルズ
ガス・ヴァン・サント
ギジェルモ・アリアガ
クエンティン・タランティーノ
クリント・イーストウッド
グザヴィエ・ドラン
コーエン兄弟
サム・ペキンパー
シドニー・ルメット
ジム・ジャームッシュ
ジャック・ロジエ
ジャン=リュック・ゴダール
ジョン・カサヴェテス
タヴィアーニ兄弟
ダルデンヌ兄弟
テオ・アンゲロプロス
テリー・ギリアム
ニキータ・ミハルコフ
ニコラス・レイ
パトリス・ル・コント
ハワード・ホークス
ビリー・ワイルダー
フェデリコ・フェリーニ
ファティ・アキン
フランソワ・オゾン
フランソワ・トリュフォー
ペドロ・アルモドバル
ポール・トーマス・アンダーソン
マイケル・ウィンターボトム
ミヒャエル・ハネケ
ラース・フォン・トリアー
ロバート・アルトマン
ロベール・ブレッソン
ロマン・ポランスキー

青山真治
今村昌平
犬童一心
石井裕也
大森立嗣
小津安二郎
北野武
宮藤官九郎
熊切和嘉
神代辰巳
黒沢清
是枝裕和
鈴木清順
園子温
成瀬巳喜男
西川美和
濱口竜介
深田晃司
藤田敏八
前田司郎
三木聡
山下敦弘
吉田喜重
読書感想・作家別
月別アーカイブ
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
映画
182位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
レビュー
83位
アクセスランキングを見る>>
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
映画ベスト10 2009~2016年
2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
    マイ・ファニー・レディ
    キャロル
    シング・ストリート 未来へのうた
    リザとキツネと恋する死者たち
    グッバイ・サマー
    サウルの息子
    マジカル・ガール
    ブリッジ・オブ・スパイ
    手紙は憶えている
<日本映画>
    淵に立つ
    クリーピー 偽りの隣人
    海よりもまだ深く
    ふきげんな過去
    SCOOP!
    永い言い訳
    オーバー・フェンス
    ディストラクション・ベイビーズ
    葛城事件
    湯を沸かすほどに熱い愛
    次点この世界の片隅に


2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
    ソニはご機嫌ななめ

<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
    百円の恋
    この国の空


2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
    罪の手ざわり
    ウルフ・オブ・ウォールストリート
    ジャージー・ボーイズ
    インサイド・ルーウィン・デイヴィス
    6才のボクが、大人になるまで。
    フランシス・ハ
    ウォールフラワー
    ある過去の行方

    <日本映画>
    そこのみにて光輝く
    ニシノユキヒコの恋と冒険
    紙の月
    Sventh Code
    私の男


      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
検索フォーム
ブックマーク
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
FC2カウンター