「大人の見る繪本 生れてはみたけれど」小津安二郎

生れては


小津安二郎の初期の無声映画を検索していたら、なんと全編ネットで見れるではないか!?驚きである。著作権が切れているのか?違法なのか?定かではないが、誰でも見れるようなのでご紹介しておく。

小津安二郎の初期の傑作「大人の見る繪本 生れてはみたけれど」である。
「大人の見る繪本 生れてはみたけれど」youtube


これを見ると、映画というのは「視線の交錯(カットバック)」と「動作=アクション」が全てであるということがよくわかる。無声映画だけに、端的にそれが表れている。バスター・キートンのようなアクションだけではなく、小津の映画には視線の切り返しと間合いのドラマがあり、動作の反復の面白さがある。後に完成された小津映画の動作反復はここに端的に表れている。そして、小津映画には珍しく、レール横移動撮影が多用されている。ほとんどがフィックス撮影の小津映画であるが、ここでは自転車からの目線の横移動があり、教室や会社描写カットでの横移動撮影がある。それがリズムを作っている。

子供の目線から見た大人社会への皮肉、小市民社会のユーモアとペーソスが見事に描かれている。最後の方で、上司にペコペコする父への反発から、子供たちが庭で食事をボイコットする場面で、親子3人、黙っておにぎりを頬張るシーンがとても感動的!同じ行為をするということは、心が通い合うことでもあるのだ。動作が重なることが、美しき調和を呼ぶ。小津の映画の動作反復は、リズムであり、調和でもあるのだ。

また、子供が活動写真の父の姿を見てショックを受けて帰る帰り道。電信柱が道路の両脇にずらった並んだ夜の一本道を帰る子供たちのシーンの素晴らしさ。繰り返される電車と踏切、兄弟の動作反復、そして模倣と繰り返し。アクションですべての力関係がわかってしまう演出。今、見ても、十分楽しめ、人間の哀しみの原点がここにある。

そして活動写真という新しいメディアが、父親の知られざる一面(秘密)を子供の前で暴いてしまうという皮肉も面白い。知らなくていいことを暴いてしまうのがメディア。現代では、携帯もネットもテレビも雑誌も映画も、知られざる秘密を暴き立てる。そして「物語」が信じられなくなる。ここでは、「父親の威厳=偉さ」という物語が一気に崩れてしまう。誰もが「物語」を信じたい。その「物語」を信じて関係を作り、生きていく。だから、信じ込ませるための「物語」は必要なのだ。なんでも知ればいいというものではない。その皮肉をこの映画は描いており、この親子は壊れてしまった物語をもう一度作り直すことをしなければいけないのだ。「物語」が強固なものであり過ぎるのも困るし、壊れてばかりいて、まったく「物語」が信じられなくなるのも困るのだ。そんなことを考えさせられた。


(1932)
メディア 映画
上映時間 91分
製作国 日本
監督: 小津安二郎
原案: ゼェームス・槇 (小津安二郎)
脚色: 伏見晁
潤色: 燻屋鯨兵衛
撮影: 茂原英朗
衣裳: 斎藤紅
編集: 茂原英朗
キャスト: 斎藤達雄、吉川満子、菅原秀雄(長男)、突貫小僧(次男)、坂本武、早見照代、加藤清一、小藤田正一

(ウ)
☆☆☆☆☆5

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テーマ : DVDレビュー
ジャンル : 映画

tag : 家族

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