「「リベラル保守」宣言」中島岳志

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「リベラル」と「保守」が対立するのではなく、中島は「リベラル保守(liberal conservative)」という立場が重要だと考える。真の保守思想家こそリベラルマインドを共有し、自由を積極的に擁護する側面がある。保守は、行きすぎた平等主義をによる人間の平準化を嫌う。一方で、「裸の自由」も懐疑的に捉える。過剰な自由は無原則の放縦を生み出し、倫理を破壊する。

中島は「左翼」を「人間理性によって、理想社会を作ることが可能とする立場」だと定義する。人間の理知的な努力によって理想社会を設計し、それを実現することによって、未来に進歩した社会が現前すると仮定した。そのような進歩史観が左翼思想の根本にある、と。

一方、保守思想は「人間の完成可能性を根源的に疑っている」と中島は定義する。人間の不完全性や能力の限界から目をそらすことなく、不完全な人間が構成する社会は、不完全なまま推移せざるを得ないという諦念を共有するのだ。だから、保守は特定の人間によって構想された政治のイデオロギーよりも、歴史の風雪に耐えた制度や良識に依拠し、理性を超えた宗教的価値を重視する。

人間の不完全性を直視する保守思想家は、過去の一点に帰すればうまくいくという「復古」とも、現在の制度を絶対に変えてはならないという「反動」とも違う。過去も現在も、未来も同様に不完全な存在だから。

重要なことは、変化に対する覚悟を持つこと、堅持することの沈着さを持つこと。「何を変えるべきか」「何を変えてはいけないか」を見極める知恵を、歴史から継承された平衡感覚に求めること。

そのためにはグラジュアル(漸進的)な改革を志向する。急激な革命主義でもなく、現状にしがみつく固執的な反動でもなく。

フランス革命で、既成の権威が解体され、「多数者の専制」が生じた問題を指摘したのがフランスの思想家アレクシ・ド・トクヴィルだった。トクヴィルは、結社やアソシエーションのような中間団体に参加することによって、パブリック・マインドが醸成され、本質的政治が確立されることを望んだ。人々は結社への関与によって「公」と接触し、社会へのコミットを開始する。これにより私益への引きこもりから脱し、公益への意思を持つことが出来る。

フランス革命の急進性を批判したエドモンド・バークは、「利己的な自由」ではなく、「社会的な自由」を求めた。歴史的に構成された「賢明は法」や「制度」によって規定された存在。バークにとって自由とは、社会が長い年月をかけて育んできた「人間らしい、道徳的な、規律ある自由」であり、放縦に到るような身勝手なものではない。

バークやトクヴィルが問題視したのは、デモクラシーという制度そのものではなく、近代デモクラシーの根底にある近代合理主義や「神なき時代の人間中心主義」こそが人間の能力への過信を助長し、結果的に社会秩序の破壊を生み出すと論じた。バークはキリスト教の「原罪」の観念を重視し、人間の理性に対する過信に陥りがちな啓蒙主義者たちを批判した。トクヴィルは、宗教が「抑制し、枠をはめる」役割を担い、デモクラシーを健全に機能させるためには必要不可欠の要素ととらえた。

中島は2度も福田恒存の言葉を引用し、役割を演じる意味、実存の大切さについて言及している。

私たちが真に求めているものは自由ではない。私たちが欲するのは、事が起こるべくして起こっているといふことだ。そして、そのなかに登場して一定の役割をつとめ、なさねばならぬことをしているという実感だ。なにをしてもよく、なんでもできる状態など、私たちは欲してはいない。ある役を演じなければならず、その役を投げれば、ほかに支障が生じ、時間が停滞する――――ほしいのは、そういふ実感だ。
~『人間・この劇的なるもの』福田恒存~


宗教的共同体や農耕社会が溶解し、世俗言語と均質的時間によって基礎づけられた新しい社会において、人々は「自己の場所(トポス)」を失った。世襲的な職分を果たすことで存在論的意味を獲得し、ホリスティック(全体的)な世界の中に包摂されてきた人々は、有機体的な社会から切り離され、個人として産業社会の荒野に放たれた。中世的世界の崩壊は伝統的コミュニティから切り離された「大衆(=mass)」を生み出し、人間を均質化した。
バークは「トポス」が失われることによって、人間がバラバラな個人に溶解し、アイデンティティの喪失に直面することを恐れた。アトム化した個人は、常に存在論的不安に苛まれ、混乱と熱狂を繰り返す。根無し草の個人は、やがて群れとなって「大衆」と化し、個別的な特異性(個性)を失う。そんな「均質的な多数者」がデモクラシーの論理によって政治を支配する「専制」を、バークは容赦なく批判した。

保守が擁護すべきデモクラシーとは何か。それはトポスの論理を基礎としたデモクラシーであり、ナショナリズムだ。それぞれの国民が自らの社会的役割を認識し、責任と主体性をもって「場所」を引き受けるところから生まれてくるデモクラシーであり、ナショナリズムだ。

そして、中島は震災を経験した現代日本の課題をこう指摘する。

震災という非常時を通じて、国民はナショナルな自覚を獲得し、東北の国民を支えるという意識を持つつつある。このナショナルな意識を、国家的再配分の動機づけへと接続し、新自由主義を突破していかなければなりません。同胞の苦しみを自らの苦しみと連続させ、支援の手を差し伸べる責任感こそ、ナショナリズムの重要な機能です。
「小さすぎる政府」を化した現在の日本の行政では、セーフティーネットに穴が開いている。
「内なるネイション」との出会いを通じて、国民と出会った我々は、苦境に陥る国民に手を差し伸べる責務がある。その中心的役割を果たすのが国家という存在でしょう。国家によるナショナル・ミニマムの保障と再分配の強化こそ、現在の国民的な課題です。
ナショナリズムを排外的な意識へと先鋭化させるのではなく、国内のネイションに対する責務へとつなげていく必要があるのではないでしょうか。


中島は保守というカテゴリーにこだわり過ぎているような気もするが、書いていることはバランスが取れている。<中庸>という思想。過剰な自由でもなく、利己的な自由でもなく、過激な熱狂でもなく、人間の不完全性を受け止めつつ、知的成熟さを持って、漸進的に改革を志向していくこと。絶対の正しさではなく、「多一論」的寛容さを持って他者との差異を乗り越えていくこと。そのための足掛かりとして、地場で生きている環境「トポス」を大切にしつつ、公共への意思を持つこと。
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