「夏の終り」熊切和嘉

夏の終り
(C)2012年 映画「夏の終り」製作委員会


男たちの間で揺れ動く女性の心を抑えた演出で浮かび上がらせる。あからさまに激しく…ではなく、見せないことで生々しく。

フェイド・アウトで短いシーンが続く。日替わりが積み重なる。時間がどんどん飛ぶので、観客はなかなか人物関係を把握できない。女(満島ひかり)と男(小林薫)の関係は?この若い男(綾野剛)と女の関係は?

女はコロッケを、ミカンを、ビスケットを、いずれも立ちながら食べる。食卓に二人で座って食べない。普通の夫婦関係ではないことがわかってくる。過去も突然挿入される。女の過去。若い男との道ならぬ恋。雨が多用される。そして歩く後ろ姿のショットも多い。シルエットもある。「だって好きなのよ」の叫びは田んぼバックでロングショットである。

そんな風に短いシーンを重ねながら、台詞をブツッと切りながら、男と女の関係、過去の物語がだんだんわかってくる。説明的ではなく、短い時間を切り取りながら想像させるやり方で。だから、セックスシーンはほとんどない。の物語でありながら、官能的なシーンはない。その部分を省略することで、逆になまなましさを浮き上がらせようとする手法。抑えられた演出。後姿が多いのも、正面からそれぞれの葛藤を描くのではなく、そっと後姿を見つめるようにカメラは人物を距離を取りながら映し出す。

電話のシーンが見事だ。相手(妻)を出さずに声だけで想像させる。それが見事だ。綾野剛の泣き言もまた電話のみだ。相手の声とそれを聴く姿。電話の会話をそれぞれカットバックさせない。綾野剛がいなくなる場面も、満島ひかりが空っぽの部屋を訪れるだけで描く。綾野剛の立ち去る姿は描かない。

満島と綾野が別れる場面の坂道が何度も出てきて面白い。上下に別れていく坂道が印象的に使われている。小林薫が満島かおりの元を去る場面は、家の前の路地を縦の構図で後姿が描かれる。カットバックでそれぞれの表情を見せるのではなく、一つの画面に二人の姿を入れる描き方が逆に心理の奥行きを感じさせる。

女は勝手といえば勝手である。男はもちろんズルくて優しい。そんな人間のダメな部分が丁寧に描かれている。昭和30年代の時代背景。木下恵介の『喜びも悲しみも幾歳月』やジョン・フォード『我が谷は緑なりき』の映画看板が映し出される。そんな時代の男と女の関係は密やかだ。その密やかさ加減が、なんだか艶めかしい。成瀬巳喜男の映画のようだ。

熊切和嘉監督は処女作『鬼畜大宴会』は未見だが、『空の穴』『アンテナ』『ノン子36歳(家事手伝い)』『海炭市叙景』と観てきた。特に『海炭市叙景』の風景や人物の切り取り方は素晴らしかった。オンナを描いた『ノン子36歳(家事手伝い)』とは別の意味で、揺れ動く人間、一人のオンナがこの『夏の終り』にも描かれている。単純な対立や葛藤のドラマではなく、静かに寄り添うように人間を見つめる確かな目が映画から感じられる。熊切監督の今後もさらに期待したい。


製作年 2013年
製作国 日本
配給 クロックワークス
監督:熊切和嘉
製作:藤本款、伊藤和明
プロデューサー:越川道夫、深瀬和美、穂山賢一
原作:瀬戸内寂聴
脚本:宇治田隆史
撮影:近藤龍人
照明:藤井勇
美術:安宅紀史
音楽:ジム・オルーク
キャスト:満島ひかり、綾野剛、小林薫、赤沼夢羅、安部聡子、小市慢太郎

☆☆☆☆4
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