「地獄でなぜ悪い」園子温

地獄

僕が園子温の才能に驚いたのは『紀子の食卓』だった。カルトと自殺サークルとレンタル家族という恐ろしき家族崩壊の物語。まさに現代の得体の知れなさを描いた衝撃作だった。今という時代を強烈に感じた。そして『愛のむきだし』のカルト宗教とエロ。『冷たい熱帯魚』では猟奇殺人の狂気の暴力と性愛を描いた。『ヒミズ』では東北大震災直後に現地に行き撮影を始め、やはり家族の絶望と狂気と愛と希望を描いた。未見だが『恋の罪』はまさに性愛と暴力、『希望の国』では原発事故の問題まで取り上げた。そして、このハチャメチャなヤクザ・ムービー『地獄でなぜ悪い』だ。映画の手法は様々だ。現実そのものから題材をとりつつ、暴力や狂気や破壊を描いた重苦しい破滅的映画もあれば、この作品のように笑いと悪ふざけの虚構をとことん追求した映画もある。いつでも彼の映画に言えることは、その<過剰さ>だ。暴力も狂気もエロもとにかく過激で過剰な表現を演出する。刺激に満ちている。それは、大地震や原発事故や猟奇殺人やカルト宗教など現実に起きている過激で刺激的なことを映画にしてしまう意味では、一貫している。それは、この映画の中で映画オタクたちがヤクザの抗争そのものを映画にしながら、自らマシンガンをぶっ放しつつカメラを回し続ける姿に重なる。過激な現実を題材にし、物語を作り、カメラを回し続けること。それが彼のやり方だ。映画という虚構でこの現実と格闘しているのだ。過激な現実と。それはいつも刺激を求めているようにも見える。その過剰さに、僕は時々ついていけなくなる。疲れてしまうのだ。もっと静かな抑えた演出が基本的に好きなのだ。

もちろん、この映画はたわいもない悪ふざけのような笑いの映画だ。スプラッター的描写はあるが、決して怖くはない。暴力も劇画的と言うかマンガじみている。こんなバカバカしいことを真剣に作る監督もあまりいない。いわゆる映画オタクたちの映画愛だ。

それはたとえば、ミシェル・ゴンドリーの映画オタクたちの夢の映画『僕らの未来へ逆回転』のようでもあるし、映画オタクそのもののクエンティン・タランティーノの暴力映画のようでもある。世代的には、やはりタランティーノに近いような気がする。映画についての映画であるならば、かつてフェリーニの『81/2』があったし、ゴダールの『軽蔑』もあるし、トリュフォーの『アメリカの夜』やヴェンダースの『ことの次第』などもある。最近作でも、レオス・カラックスが『ホーリー・モーターズ』もあった。または虚構と現実の境界の曖昧さを描いた映画に今村昌平の『人間蒸発』なんていう映画もあった。映画はいつも映画の嘘を映画にしてきた。映画の虚構そのものを。あるいは映画への愛を。ただ園子温のその映画愛は、どこかバカバカしく、とことん嘘くさい。

1970年代、映画撮影所システムが崩壊し、8ミリなど自主製作映画が脚光を浴びはじめ、自ら仲間たちとの映画作りを通じて映画愛を表明してきた映画監督も多い。大林宣彦をはじめ、森田芳光、大森一樹、井筒和幸、矢口史靖、黒沢清など数え上げればキリがない。園子温もそんな一人である。だから、映画が撮りたくて撮りたくてしょうがなかったこの長谷川博己演じる映画オタクの青年もまた園子温そのものと言えるのだろう。この映画という虚構世界にのめり込んでいき、現実よりも虚構世界を愛するようになると、現実が見えなくなり虚構の毒に染まっていく。そんな自分自身の自己批評もこの映画には込められている。ただ、その映画愛の幼稚さがなんともついていけない。これは園子温の『愛のむきだし』でもあったパンチラ盗撮に情熱を燃やす幼稚さと同じだ。この感覚がどうにも僕にはついていけない。世代の違いなのだろうか。くだらなすぎるのだ。幼すぎるというか、マンガ的すぎるというか、その幼稚さが笑えないのだ。

ただ國村隼や堤真一などの芸達者な俳優たちのおバカなヤクザたちには笑える。映画オタクたちを出さずに、ヤクザたちだけの愛妻出所のための娘主演の映画作りのお話なら、もっと面白かったのになぁと思うのだ。


製作年 2013年
製作国 日本
配給 キングレコード、ティ・ジョイ
上映時間 129分
映倫区分 PG12
監督:園子温
脚本:園子温
撮影:山本英夫
照明:小野晃
録音:小宮元
美術:稲垣尚夫
編集:伊藤潤一
キャスト:國村隼、堤真一、二階堂ふみ、友近、長谷川博己、星野源、坂口拓、成海璃子

☆☆☆☆4
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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