「「待つ」ということ」鷲田清一

待つ

待たなくてよい社会になった。
待つことが出来ない社会になった。
待ち遠しくて、待ちかまえて、待ち伏せて、待ちあぐねて、とうとう待ちぼうけ。待ちこがれ、待ちわびて、待ちかね、待ちきれなくて、待ちくたびれ、待ち明かして、ついに待ちぼうけ。待てど暮らせど、待ち人来たらず…。だれもが密かに隠しもってきたはずの「待つ」という痛恨の思いも、じわりじわり漂白されつつある。


というぐあいに現代において「待つ」ことの不可能性が本書の「まえがき」で語られる。携帯電話は「待ち合わせ」と「すれ違い」のドラマを不可能にした。いつでも連絡を取り合えるということは、「待つ」必要がないからだ。だから人は「待てない」。「待つ」ことに苛立つ。子供の誕生も、待たずに性別を知ることが出来るし、子育ても「待てずに」すぐ手助けする。仕事場では短いスパンで「成果」を求められ、外食産業も出店と閉店の繰り返し。見切りも早ければ、新たな開発も早い。パソコンも携帯電話もめまぐるしく新しい機種が次々と発売され、買うことをを急かされる。政治や経済は「待ったなし」だと急き立てられ、「バスに乗り遅れるぞ」と脅される。グローバル社会で、為替や株価の乱高下は、一瞬にして世界を駆け巡る。ネットの発達で、時空は縮まり、スピードばかりが要求される。

だが、「待つ」ことは本当に必要ないのだろうか。この本は「待つ」ことの哲学について語られる。

「待たない社会」、そして「待てない社会」。
意のままにならないもの、どうしようもないもの、じっとしているしかないもの、そういうものへの感受性をわたしたちはいつか無くしたのだろうか。偶然を待つ、自分を超えたものにつきしたがうという心根をいつか喪ったのだろうか。時が満ちる、機が熟すのを待つ、それはもうわたしたちにはあたわぬことなのか・・・。


有名なベケットの演劇『ゴドーを待ちながら』を考察しながら、「期待を棄てたところでほんとうの<待つ>がはじまる」と語る。待つことを放棄することがそれでも待つことにつながるのは、そこに未知の事態へのなんらかの開けがある。それは、他者との関係のなかに自らを据えること。待ち受けるというその開けが意識を開き、何かがわたしに働きかけてくれるその場を開く。<待つ>のその時間に発酵した何か、ついに待ちぼうけをくらうだけに終わっても、それによって待ちびとは、<意味>を超えた場所に出る、その可能性にふれるはずだと、本書は説く。

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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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