「荒野のストレンジャー」クリント・イーストウッド

ストレンジャー

友人から「この映画は霊の映画だ。クリント・イーストウッドの原点がここにある」と聞いて気になって見た。『恐怖のメロディ』に続き、これが監督第2作目。脚本は『フレンチ・コネクション』でアカデミー脚本賞を受賞したアーネスト・タイディマン。

なるほど、凄い西部劇だ。この流れ者である男が何者なのか、最後まで明かされない。小人の男がこの流れ者(C・イーストウッド)に名前を最初と最後に2度ほど尋ねる。「名前をまだ聞いてなかったな」と。最初の時は「言ってない」と素っ気なく、最後に彼は「知ってるはずさ」と言って去っていくのだ。画面に映されるのは、墓碑銘が刻まれた死んだ男(鞭でなぶり殺された保安官)の墓。この流れ者は、死んだ保安官の身代わりの幽霊とも考えられるし、その保安官の兄や弟などの身内とも考えられる。ラストは蜻蛉がゆらゆらと揺れる地平線を馬に乗った男が去っていく。う~~~ん、凄い。主人公が最後まで謎の男なのである。

そしてさらにシュールで驚きなのが、町の建物をみんな赤いペンキで塗りつくしてしまうことだ。なぜ赤いペンキなのか?血の色?町の名前が書かれた看板に「地獄Hell」と書かれる。町を地獄にしてしまうのだ。

町から追い出した無法者3人が再び刑務所を出て帰ってくるので、その復讐を恐れた町の人々が用心棒を雇う。その用心棒たちの傍若無人ぶりに困っていたら、そんな彼らを流れ者のC・イーストウッドが撃ち殺してしまうのだ。町の人々は困ってしまい、素性の知れないこの流れ者を再び用心棒として雇うことにした。

この男は決して正義の者ではない。町にやって来るなり、因縁をつけられた男たち3人を早撃ちであっという間に殺したかと思うと、町の跳ね返り女をいきなり強姦する。保安官や町長の権限をお調子者の小人に与えたり、バーの酒は飲み放題。ホテルの客たちを追い出し、女を呼んで部屋を使い放題。もうやりたい放題なのだ。渋々、この男に従う町の人々。力に屈するしかない人々。

男がホテルで眠る場面で、いきなり鞭でなぶり殺される男のイメージが挿入される。それはこの流れ者の過去なのか?友や兄弟なのか、観客もよくわからない。そして、その鞭で殺された男というのは、かつてこの町の保安官であり、その殺しを誰も止めることが出来ず、町の人々に見殺しにされた過去が明らかにされる。沈黙の傍観者。誰もが見殺しにした殺人者でもあるのだ。正義の者などいない。流れ者も町の人々も刑務所から出てきた男たちも。

主題となるのは、「力に対して無力な人々」だ。町の人々は、新たな流れ者の力に従っていく。文句を募らせながら。牧師も無力な姿として描かれる。流れ者は、町の人々に銃を持たせ、戦うことを教える。仕方なく銃を持つ人々。これで、町の人々が立ち上がり、無法者たちに勝利できれば物語はハッピーエンドで分かりやすい。しかし、町の人々は戻ってきた無法者たちに、次々とやられてしまうのだ。

赤くペンキで塗られた建物は炎に包まれ、地獄と化していく。そこへ、流れ者(イーストウッド)が戻ってきて、姿を見せぬまま、無法者たちを鞭やロープで殺していく。それはまるで、保安官の霊が復讐しているかのようなのだ。ついに無法者たちはみんな殺され、翌朝、流れ者は廃墟になった町を去っていく。誰でもない者として。

クリント・イーストウッドの怨念とも言える強い情念にはいつも圧倒される。死んだ男が流れ者に乗り移ったかのように、町を地獄にして燃やしてしまう。人々に見殺しにされた男の怨念。力にただただ屈服することに対して、自らの体で戦うことを求める。黒澤明の『用心棒』や『七人の侍』の影響もあるだろが、単純な勧善懲悪ものにしない観念性はC・イーストウッドならではのものだろう。


原題 High Plains Drifter
製作年 1972年
製作国 アメリカ
配給 ユニヴァーサル=CIC
監督:クリント・イーストウッド
脚本:アーネスト・タイディマン
製作:ロバート・デイリー
撮影:ブルース・サーティーズ
音楽:ディー・バートン
キャスト:クリント・イーストウッド、バーナ・ブルーム、マリアンナ・ヒル、ミッチェル・ライアン、ジャック・ギンク、ステファン・ギラシュ、テッド・ハートレイ、ビリー・カーティス
ジェフリー・ルイス

☆☆☆☆☆5
(コ)
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テーマ : TVで見た映画
ジャンル : 映画

tag : 西部劇 ☆☆☆☆☆5

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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
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