「青春放課後」 里見弴、小津安二郎脚本
小津の幻のテレビドラマ。放送された年の12月に小津は没した。遺作となった脚本らしい。小津がもっと生きていたら、テレビドラマを撮ったかもしれない。小津の世界はテレビドラマが似合う。なんといっても台詞のやり取りに庶民の哀感があるからだ。派手なアクションは必要ない。
このドラマは芝居のシーンは全部セット。ロケ撮影はない(町のネオンとか風景のみ)。基本的に板付きの座り芝居であり、歩くなど動き芝居はほとんどない。演出は小津安二郎ではないため、画面構成やカメラ割りに小津的様式美はない。それでも小津的世界が十分表れている。
適齢期を過ぎようとする現代的な娘に小林千登勢。酒も飲むし、活動的で好奇心も旺盛。学生時代、京都で遊んだ男たち(宮口精二、北竜二)にとって、小林千登勢はひょっとしたら娘かもしれない存在。そんな曖昧な関係の中、小林千登勢はオジ様たちがいる東京に出てくる。母が持ってくる縁談話にもウンザリしており、新しい出会いも求めている彼女の東京での数日間の物語だ。小林千登勢がちょっと思いを寄せる北竜二の秘書に佐田啓二。三宅邦子や杉村春子のおば様たちが、若い小林千登勢をたしなめる。
京都の小料理屋、旅館の部屋。そして東京のバー、宮口精ニの家の台所や茶の間、北竜二の家の居間や玄関、友人のアパートの部屋などでのやり取りが全てだ。六本木のラーメン屋や赤坂の高級旅館も出てくる。台詞のやり取りが淡々と進むが、そこに人間たちの心の機微が映し出される。遠い青春への郷愁と老いを迎えた現在の悪友との語らい。婚期を過ぎた女性の結婚への思いや放課後、校庭に一人取り残されたような寂寥。高齢期を迎えた女性たちの若い女性への憧れと嫉妬。登場人物たちの間で、激しい葛藤はない。佐田啓二と出会うタイミングがずれてしまった小林千登勢は、人生の虚無を感じつつ、京都へ戻る。悪友たちは、娘かも知れない小林千登勢に接しながら、「お前の娘にしては上出来だ」と笑いあう。善人というわけではない。男は女が好きで、女も男に関心を持ち、男も女も若さへの郷愁と憧れや嫉妬を持つ。ちょっとした隠し事があり、狡さもある。それぞれの思いを抱えながら生きている人間たちを静かに包み込むように描いているのは、やはり小津的世界そのものと言えるだろう。
1963年3月21日 NHK
放送時間 88分
演出:畑中庸生
脚本:里見弴,小津安二郎
音楽:斎藤高順
キャスト:小林千登勢,佐田啓二,宮口精二,三宅邦子,北竜二,杉村春子,西口紀代子,環三千世,高橋幸治,稲野和子,マイク・ダニーン,藤代佳子,南美江
このドラマは芝居のシーンは全部セット。ロケ撮影はない(町のネオンとか風景のみ)。基本的に板付きの座り芝居であり、歩くなど動き芝居はほとんどない。演出は小津安二郎ではないため、画面構成やカメラ割りに小津的様式美はない。それでも小津的世界が十分表れている。
適齢期を過ぎようとする現代的な娘に小林千登勢。酒も飲むし、活動的で好奇心も旺盛。学生時代、京都で遊んだ男たち(宮口精二、北竜二)にとって、小林千登勢はひょっとしたら娘かもしれない存在。そんな曖昧な関係の中、小林千登勢はオジ様たちがいる東京に出てくる。母が持ってくる縁談話にもウンザリしており、新しい出会いも求めている彼女の東京での数日間の物語だ。小林千登勢がちょっと思いを寄せる北竜二の秘書に佐田啓二。三宅邦子や杉村春子のおば様たちが、若い小林千登勢をたしなめる。
京都の小料理屋、旅館の部屋。そして東京のバー、宮口精ニの家の台所や茶の間、北竜二の家の居間や玄関、友人のアパートの部屋などでのやり取りが全てだ。六本木のラーメン屋や赤坂の高級旅館も出てくる。台詞のやり取りが淡々と進むが、そこに人間たちの心の機微が映し出される。遠い青春への郷愁と老いを迎えた現在の悪友との語らい。婚期を過ぎた女性の結婚への思いや放課後、校庭に一人取り残されたような寂寥。高齢期を迎えた女性たちの若い女性への憧れと嫉妬。登場人物たちの間で、激しい葛藤はない。佐田啓二と出会うタイミングがずれてしまった小林千登勢は、人生の虚無を感じつつ、京都へ戻る。悪友たちは、娘かも知れない小林千登勢に接しながら、「お前の娘にしては上出来だ」と笑いあう。善人というわけではない。男は女が好きで、女も男に関心を持ち、男も女も若さへの郷愁と憧れや嫉妬を持つ。ちょっとした隠し事があり、狡さもある。それぞれの思いを抱えながら生きている人間たちを静かに包み込むように描いているのは、やはり小津的世界そのものと言えるだろう。
1963年3月21日 NHK
放送時間 88分
演出:畑中庸生
脚本:里見弴,小津安二郎
音楽:斎藤高順
キャスト:小林千登勢,佐田啓二,宮口精二,三宅邦子,北竜二,杉村春子,西口紀代子,環三千世,高橋幸治,稲野和子,マイク・ダニーン,藤代佳子,南美江
スポンサーサイト