「氷平線」桜木紫乃 (文春文庫)

41JMyoRMHgL__SX230_.jpg


小説のレビューを書くのは久しぶりだ。最近、あまり小説を読んでいないんだなぁ。さて、桜木紫乃である。『ホテルローヤル』で第149回直木賞受賞。ゴールデンボンバーの大ファンであることも話題になった。最近、やたらと本屋で平積みになっているから売れているのだろう。すっかり人気女性作家である。北海道釧路出身ということもあって気になって読んでみた。2007年の単行本デビュー作が文庫で出ていた。

北海道の風土が描きこまれている。低く垂れこめた空、広大な大地、凍てつく寒さ、オホーツクの流氷、あるいは降りしきる雪、釧路の霧や湿った空気…。彼女が描く北海道の風土は、決して解放的で明るくはない。どこか人間たちを閉じ込めるような抑圧的な陰鬱さだ。そこには、田舎であることの閉鎖性、しがらみの強さ、隣のことは何でも知られてしまう狭い関係が描かれる。農家も和裁師も理髪店も漁師町でも、人々は噂を気にしながら、狭く閉じた人間関係のなかで生きている。

『雪虫』では、「ひとの家の冷蔵庫の中身まで知っている」人間関係の中で、「気づかれていないふり」をしながら、高校時代から恋人同士だった男女は、今も腐れ縁の関係を続けている。牛舎の乾草の上でのセックス描写から小説は始まる(桜木紫乃の小説ではセックス描写が度々出てくるのだ)。この二人の関係には、ときめきも希望もない。諦めのような惰性があるだけだ。札幌で仕事に失敗した息子は、借金を親に肩代わりしてもらい、十勝の和牛農家の実家に戻ってきた。そんなろくでもない息子に、父親は跡継ぎを作らせるために、フィリピンの少女を買い与える。農家の嫁を斡旋する人身売買のような業者がいるのだ。そんな田舎の牧場の重い現実、その現実に閉じ込められながら生きる男と女、そして異国からやってきた少女との関係が描かれる。

『夏の稜線』も牧場を舞台にした東京から嫁いできた女性の話だ。田舎の閉鎖性に馴染めぬ嫁。娘ではなく、息子を産むことを姑からプレッシャーをかけられ、夫との関係も冷めている家庭。そんな田舎に赴任してきた若い教師との関係をキッカケに、女性が娘を連れて北海道を脱出するまでの物語だ。ここにも地方に閉じ込められる息苦しさがある。

『霧繭』は霧の町で和裁師という仕事をする女性が主人公だ。和裁という狭い世界の中で、師弟を中心にした人間関係が描かれる。『海に帰る』も釧路の冬の理髪店を舞台にした職人の物語だ。師匠から受け継いだお店を任された男のところに現れる謎の女性。いずれにしても狭い世界の関係であり、気候風土の描写も閉じ込められたような印象だ。『水の棺』もやり手の歯科医師の院長と愛人関係にある女性歯科医師の自立の物語。『氷平線』は、ややサスペンス仕立てのオホーツク沿岸の貧しい漁師町の物語だ。アル中DVのろくでもない父親から逃げ出すために、勉強して東京の大学に入り、再び故郷に帰ってきた男。そして、生きるために娼婦にならざるを得なかった女との物語。哀しく悲惨な環境とそこから逃げ出しつつも、いつまでも逃れられない家族や過去。

閉鎖的な田舎やしがらみから抜け出そうとする男や女。脱け出そうにも抜け出せない人々。そんな彼らにとって、性関係の肌のぬくもりだけが救いとなるのだ。

他の小説も読んでみたい。
スポンサーサイト

テーマ : ブックレビュー
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


twitter 719hideyosi

最新記事
お気に入り度
テレビドラマ「カルテット」
映画あいうえお順
カテゴリ
映画ジャンル&☆ランク
映画監督別
アキ・カウリスマキ
アラン・レネ
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
アルフレッド・ヒッチコック
アンドレイ・タルコフスキー
イエジー・スコリモフスキ
イザベル・コイシェ
ウェス・アンダーソン
ウディ・アレン
ヴィム・ヴェンダース
エドワード・ヤン
エミール・クストリッツァ
エリック・ロメール
オーソン・ウェルズ
ガス・ヴァン・サント
ギジェルモ・アリアガ
クエンティン・タランティーノ
クリント・イーストウッド
グザヴィエ・ドラン
コーエン兄弟
サム・ペキンパー
シドニー・ルメット
ジム・ジャームッシュ
ジャック・ロジエ
ジャン=リュック・ゴダール
ジョン・カサヴェテス
タヴィアーニ兄弟
ダルデンヌ兄弟
テオ・アンゲロプロス
テリー・ギリアム
ニキータ・ミハルコフ
ニコラス・レイ
パトリス・ル・コント
ハワード・ホークス
ビリー・ワイルダー
フェデリコ・フェリーニ
ファティ・アキン
フランソワ・オゾン
フランソワ・トリュフォー
ペドロ・アルモドバル
ポール・トーマス・アンダーソン
マイケル・ウィンターボトム
ミヒャエル・ハネケ
ラース・フォン・トリアー
ロバート・アルトマン
ロベール・ブレッソン
ロマン・ポランスキー

青山真治
今村昌平
犬童一心
石井裕也
大森立嗣
小津安二郎
北野武
宮藤官九郎
熊切和嘉
神代辰巳
黒沢清
是枝裕和
鈴木清順
園子温
成瀬巳喜男
西川美和
濱口竜介
深田晃司
藤田敏八
前田司郎
三木聡
山下敦弘
吉田喜重
読書感想・作家別
月別アーカイブ
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
映画
224位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
レビュー
109位
アクセスランキングを見る>>
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
映画ベスト10 2009~2016年
2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
    マイ・ファニー・レディ
    キャロル
    シング・ストリート 未来へのうた
    リザとキツネと恋する死者たち
    グッバイ・サマー
    サウルの息子
    マジカル・ガール
    ブリッジ・オブ・スパイ
    手紙は憶えている
<日本映画>
    淵に立つ
    クリーピー 偽りの隣人
    海よりもまだ深く
    ふきげんな過去
    SCOOP!
    永い言い訳
    オーバー・フェンス
    ディストラクション・ベイビーズ
    葛城事件
    湯を沸かすほどに熱い愛
    次点この世界の片隅に


2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
    ソニはご機嫌ななめ

<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
    百円の恋
    この国の空


2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
    罪の手ざわり
    ウルフ・オブ・ウォールストリート
    ジャージー・ボーイズ
    インサイド・ルーウィン・デイヴィス
    6才のボクが、大人になるまで。
    フランシス・ハ
    ウォールフラワー
    ある過去の行方

    <日本映画>
    そこのみにて光輝く
    ニシノユキヒコの恋と冒険
    紙の月
    Sventh Code
    私の男


      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
検索フォーム
ブックマーク
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
FC2カウンター