「来たるべき民主主義」國分功一郎(幻冬舎新書)

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「民主主義とは『常に来たるべきものにとどまる』」というジャック・デリダの言葉を引用しながら、気鋭の哲学者、國分功一郎が「小平市都道328号線と近代政治哲学の諸問題」をわかりやすく論じている。

デリダによれば、「民主主義」とは、「常に実現の手前にあり、十分ではないものであり続ける」ことだという。「民衆による支配」は、誰もが民衆なのだから、「自分たちが全員で自分たちを支配すること」なんてあり得ない。「民主主義は完全に実現しない」。「より民主的」であろうとするだけであり、その「より民主的であろうとし続けること」が大事なのだ。

「小平市都道328号線」の建設問題が國分功一郎氏の近所で突然持ち上がり、行政が道路を作るという決定事項に住民は全く関われないシステムが出来上がっていることに彼は愕然とする。住民への「説明会」はアリバイ的なものでしかなく、この住民による反対運動は、都内初の直接請求による住民投票まで行われたが、投票率50%に満たなければ住民投票は「不成立」という市長からの修正案が市議会で可決され、結果、投票率は35.17%で住民投票は不成立となった。そして、この住民投票の結果は開票さえされなかった。半世紀も前に作られた道路計画は、住民にとって憩いの場である雑木林と地域コミュニティを壊すことになると多くの反対意見が出されても、行政の実行を阻むことはできなかったのである。

このことから國分は、民主主義とは何かを哲学する。民衆は、立法権に選挙を通じて関わることはできるが、行政にはほとんど関われない。そして、政治家は議会で物事を何も決めておらず、実際に物事を決めているのは官僚であり、行政であるのだ。ここに現代の民主主義の欠陥がある。つまり、立法権だけでなく、行政にも民衆がオフィシャルに関われる制度を整えていくこと。民主主義は「完成されたシステム」ではなく、「より民主的」であるために制度を整え、補完し続けていくべきなのだというのか彼の主張だ。

20世紀のドイツ哲学者、カール・シュミットによれば、政治を突き詰めれば「敵か友か」であるという。人間はつねに複数いる。政治はその間を取り持ち、合意を取り付け、決定を下す。問題は、政治がもたらす決定が一つでしかありえないことである。政治が、複数の人間と単数の決定を結びつける営みだということを意味している。「多」と「一」は結び付かない。そもそも政治とは「無理な営み」なのだ。そのために政治は「権威」を必要とする。初めに宗教的権威(神様の命令)、そして伝統的権威(昔からこうやって来た)。そして近代に入り、「主権」概念が生まれ、「法」による支配、法による統治という思想が生まれ、「公開性」を統治の根本に置いた。そして主権とは、法を制定する立法権にこそあり、それが議会制民主主義を生み出した。

近代の主権理論では、立法府こそが決定機関であり、行政府はその執行機関に過ぎない、決められたことを粛々と実行していく機関に過ぎないという「建前」である。しかし現実は、役所や官僚が素案を作り、政策を決めている。行政は実行している以前に決定しているのだ。議会は決定し議論する場ではなく、形式的、儀式的に「お墨付き」を与えているに過ぎない場なのだ。

そこで主権者である民衆が、選挙によって代議士を議会に送り出す立法権に部分的に関わることしかできないことに問題があるのだとしたら、政治に関わる制度を多元的にすればいい。つまり議会という制度を認めたうえで、さらに制度を追加すればいいという。ドゥルーズによれは、「専制とは、多くの法とわずかな制度を持つ政体であり、民主主義とは、多くの制度とわずかの法を持つ政体である」。「制度が多ければ多いほど、人は自由になっていく」。

以下、國分氏による具体的な追加すべき制度の提案
・住民投票制度の法的確立。または、自治体による住民投票の条例化。
・審議会などの諮問機関の改革 
・ファシリティー付き、住民・行政共同参加ワークショップの提案
・パブリックコメントの有効活用

議会制民主主義、あるいは議会制度には大いに問題がある。だが、だからといってこれを根本的に変えなければならないという発想では何もできない。議会という立法府の力で全てが統治できると思っていたことが間違いだったのであり、実際の統治のために多くの決定を下しているのは行政府であるという現実を踏まえて、この現実に対応する策を講じる必要がある。それは、制度を増やし、決定を複数化していくこと。議会制民主主義に強化パーツを足して補強していくことを本書は提案している。

國分氏の論点はとても明快であり、分かりやすい。
それにしても、これから高齢化社会に向かって、車社会が縮小していくにもかかわらず、道路を整備し、増やすことにどれだけの意味があるのだろうか。災害対策と国土強靭化の推進と公共事業投資の政策が、住民コミュニティや森や林を破壊することに向かうのだとしたら、大きな問題である。

住民参加の議論は、ヒステリックな一部の反対運動であってはならない。本書にあるように、「対話や議論は自然に生まれたりはしない」。「自由な主体」が集まって、自由に議論すればいいわけではない。そこには、行政と住民双方の舵取りができるファシリテーターのような人の存在が必要であり、住民参加のための環境づくりが必要だ。民主主義とは、つねに発展し続けるものであり、完成されたシステムではない。そのために時間をかけて、熟議をしていかないといけないだろう。特定秘密保護法案のように、熟議もされないまま、拙速に法制化することは、民主主義を後戻りさせることにしかならない。
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