「桐島、部活やめるってよ」吉田大八

桐島

いろんな風に解釈ができる興味深い映画だ。現代の青春学園映画なのだが、どうにも息苦しい。先日観た「楽隊のうさぎ」とは違う。「楽隊のうさぎ」には、イジメや居場所探しがあって、成長とつながりの発見がある。しかし、「桐島」には桐島不在の混乱だけが描かれる。とても多層的な構造であることがユニークだ。主役がいて、その一直線な縦軸に沿って物語が描かれる訳ではない。人物は輻輳的であり、停滞と混乱だけが繰り返されるのだ。

不在の存在として桐島は映画に君臨する。桐島によって形成されていた秩序が、彼の不在によって瓦解し、世界は混乱するのだ。誰もが桐島を探し求め、彼の復活を待ち望み、コンタクトをとろうとする。しかし、桐島は現れない。消えてしまったかのように、学校に姿を見せない。あの屋上から飛び降りる姿は桐島だったのか。桐島の幻想まで生徒たちは見てしまうのだ。不在であることによって高めるプレゼンス(存在)。彼らはそれほど桐島に依存していることに気づいていなかったのかもしれない。しかし、桐島が消失してしまうことで、世界の秩序が桐島中心であったことに気づくのだ。

桐島とは何か?社会学者の大澤真幸氏は、『資本主義の謎』という本のなアメリカになぞらえて捉えると面白いと書いている。「アメリカ、同盟やめるってよ」とか、「アメリカ、覇権おりるってよ」というように、アメリカがいなくなったとき、日本はどうなるのか?アメリカなきあとの世界の混乱。資本主義の優等生のアメリカに認めてもらっていることで、安心感や自尊心を日本は保てる。「桐島が俺たち、私たちの代わりに救済されている」という感覚が生徒たちに分有されている。鬱々と冴えない学園生活でもヒーロー桐島が認められることで、自分たちも救われている、そんな感覚がこの学校の生徒たちにはあった、と大澤真幸は指摘する。桐島の恋人も親友も、バレーボール部の連中も。桐島と直接関係ない生徒たちも、みんな桐島の存在を通じて、秩序が形成され、安定していられた。しかし、桐島の不在はあらゆる関係で不協和音と不安を増幅させた。『ゴドーを待ちながら』は、不在の「ゴドー」を待ち続ける話だが、中心にいた「ゴドー」がいなくなってしまったあとの混乱が、ここでは描かれている。

待てども待てども桐島は現れない。自分たちは、どうやってこれから学園生活をおくっていけばいいのか。「桐島がいたら、許されないぞ」と怒るバーレボール部員も、いつまでも桐島の不在に慣れることはできない。桐島の代わりのリベロ役の小さき生徒は、部員たちの怒りのはけ口になる。それほどまでに桐島に世界は依存している。

ただこの生徒たちのなかで、オタク的映画部の連中だけが、桐島を必要としていなかった。だから、彼らは桐島の不在の騒ぎにも、無関心であり、ただただゾンビの映画作りに熱中している。そんな彼らの映画作りも、しばしば邪魔が入り中断させられる。顧問の先生、桐島の親友、宏樹に想いを寄せる吹奏楽部の女生徒によって。あるいは、桐島不在の混乱にあるすべての生徒たちによって、ゾンビの撮影は中断させられる。それでも、映画部のオタク少年、涼也(神木隆介)は、
桐島の親友の宏樹(東出昌大)に、自分たちの映画が大好きな映画世界とつながっていることの幸福を語る。将来、映画監督になることはできないと現実的に自分を見つめつつ、世界とつながることの夢を語るのだ。アナログな8ミリの撮影機材で世界を覗きながら…。

ここに桐島という大きな物語を必要としないで、自らの視線の先に世界とつながろうとしている少年がいる。大好きな彼女にフラれようとも、自らの幻想の力で世界をつかみ取ろうともがいている少年がいる。桐島の親友である宏樹は、スポーツ万能でモテモテの超エリートでありながら、無気力でどこか諦めている。野球にもバスケにも友情にも夢中になれない。宏樹はヒーロー桐島の存在によって、救済されていた。自らの力で何もしなくても。しかし、桐島の不在で宏樹も途方にくれる。

スクールカーストのエリートたちの方が、どこか息苦しく閉塞感に満ちているのだ。そこには関係の呪縛があり、本音を語れないスクールカースト的上下関係がある。宏樹に想いを寄せる吹奏楽部の部長も、本音を誰にも晒せない。そして、運動神経も容姿も劣っているオタク的映画部の連中のみが、桐島の不在から自由でいられるのだ。


製作年 2012年
製作国 日本
配給 ショウゲート
上映時間 103分
監督:吉田大八
製作指揮:宮崎洋
原作:朝井リョウ
脚本:喜安浩平、吉田大八
撮影:近藤龍人
照明:藤井勇
美術:樫山智恵子
音楽プロデューサー:日下好明
音楽:近藤達郎
主題歌:高橋優
キャスト:神木隆之介、橋本愛、東出昌大、大後寿々花、前野朋哉、岩井秀人

☆☆☆☆☆5
(キ)
スポンサーサイト

テーマ : DVDレビュー
ジャンル : 映画

tag : 青春 ☆☆☆☆☆5

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


twitter 719hideyosi

最新記事
お気に入り度
テレビドラマ「カルテット」
映画あいうえお順
カテゴリ
映画ジャンル&☆ランク
映画監督別
アキ・カウリスマキ
アラン・レネ
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
アルフレッド・ヒッチコック
アンドレイ・タルコフスキー
イエジー・スコリモフスキ
イザベル・コイシェ
ウェス・アンダーソン
ウディ・アレン
ヴィム・ヴェンダース
エドワード・ヤン
エミール・クストリッツァ
エリック・ロメール
オーソン・ウェルズ
ガス・ヴァン・サント
ギジェルモ・アリアガ
クエンティン・タランティーノ
クリント・イーストウッド
グザヴィエ・ドラン
コーエン兄弟
サム・ペキンパー
シドニー・ルメット
ジム・ジャームッシュ
ジャック・ロジエ
ジャン=リュック・ゴダール
ジョン・カサヴェテス
タヴィアーニ兄弟
ダルデンヌ兄弟
テオ・アンゲロプロス
テリー・ギリアム
ニキータ・ミハルコフ
ニコラス・レイ
パトリス・ル・コント
ハワード・ホークス
ビリー・ワイルダー
フェデリコ・フェリーニ
ファティ・アキン
フランソワ・オゾン
フランソワ・トリュフォー
ペドロ・アルモドバル
ポール・トーマス・アンダーソン
マイケル・ウィンターボトム
ミヒャエル・ハネケ
ラース・フォン・トリアー
ロバート・アルトマン
ロベール・ブレッソン
ロマン・ポランスキー

青山真治
今村昌平
犬童一心
石井裕也
大森立嗣
小津安二郎
北野武
宮藤官九郎
熊切和嘉
神代辰巳
黒沢清
是枝裕和
鈴木清順
園子温
成瀬巳喜男
西川美和
濱口竜介
深田晃司
藤田敏八
前田司郎
三木聡
山下敦弘
吉田喜重
読書感想・作家別
月別アーカイブ
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
映画
194位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
レビュー
86位
アクセスランキングを見る>>
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
映画ベスト10 2009~2016年
2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
    マイ・ファニー・レディ
    キャロル
    シング・ストリート 未来へのうた
    リザとキツネと恋する死者たち
    グッバイ・サマー
    サウルの息子
    マジカル・ガール
    ブリッジ・オブ・スパイ
    手紙は憶えている
<日本映画>
    淵に立つ
    クリーピー 偽りの隣人
    海よりもまだ深く
    ふきげんな過去
    SCOOP!
    永い言い訳
    オーバー・フェンス
    ディストラクション・ベイビーズ
    葛城事件
    湯を沸かすほどに熱い愛
    次点この世界の片隅に


2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
    ソニはご機嫌ななめ

<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
    百円の恋
    この国の空


2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
    罪の手ざわり
    ウルフ・オブ・ウォールストリート
    ジャージー・ボーイズ
    インサイド・ルーウィン・デイヴィス
    6才のボクが、大人になるまで。
    フランシス・ハ
    ウォールフラワー
    ある過去の行方

    <日本映画>
    そこのみにて光輝く
    ニシノユキヒコの恋と冒険
    紙の月
    Sventh Code
    私の男


      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
検索フォーム
ブックマーク
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
FC2カウンター