『「一九〇五年」の彼ら 「現代」の発端を生きた十二人の文学者』関川夏央

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関川は書く。

日本の国民国家としての頂点は、一九〇五年五月二十七日である。その日の午後、対馬海峡東方で行われた日本海軍連合艦隊とロシア海軍バルチック艦隊の海戦は、日本にとって亡国か興国かの瀬戸際の戦いだった。日本人はこぞって、文字通り「固唾をのんだ」。この国民的一体感の共有こそ、国民国家の完成の瞬間だった日本海軍連合艦隊は、バルチック艦隊を撃破し、ロシアによる日本海の「内海化」は防がれ、植民地化の悪夢は遠ざかった。
海軍勝利で日本は独立を維持した。しかし日露戦争勝利後の、ポーツマスの講和条件に不満だった国民は、その年の九月、東京日比谷をはじめ各地で暴動が起こった。日露戦争のために払った人命犠牲と増税の痛みは、講和の「軟弱」な条件では癒されない。戦争を継続せよ、ロシア沿海州を日本領とするまで戦うべし、と国民とマスコミは叫んだ。
国民国家の書かを味わった一九〇五年は、早くもその秋には、大衆が政治的実力を持つ時代、成長する中間層を核に大衆化が花咲く時代、しかし衆愚政治が危険と背中合わせの時代へと移っている。その意味で一九〇五年は、まだ明治三十八年でありながら大正・昭和の発端した年、あるいは「現代」の始まった年として記憶される。
すなわち、この一九〇五年に青春期または人生の最盛期にあった人々こそ、現代人の原型であろう。


というわけで、年代順に一九〇五年のそれぞれの文学者の人生と、その最期の年を振り返る構成になっている。

・<森鴎外ー熱血と政令を併せ持って生死した人> 1905年43歳~1922年60歳
・<津田梅子ー日本語が得意でなかった武士の娘> 1905年41歳~1929年64歳
・<幸田露伴ーその代表作としての「娘」>    1905年38歳~1947年80歳
・<夏目漱石ー最後まで「現代」をえがきつづけた不滅の作家>1905年38歳~1916年49歳
・<島崎藤村ー他を犠牲にしても実のらせたかった「事業」>1905年33歳~1943年71歳
・<国木田独歩ーグラフ誌を創刊したダンディな敏腕編集者>1905年34歳~1908年37歳
・<高村光太郎ー日本への愛憎に揺れた大きな足の男>   1905年22歳~1955年73歳
・<与謝野晶子ー意志的明治女学生の行動と文学>     1905年26歳~1942年63歳
・<永井荷風ー世界を股にかけた「自分探し」と陋巷探訪> 1905年25歳~1959年79歳
・<野上弥生子ー「森」に育てられた近代女性>      1905年20歳~1985年99歳
・<平塚たいてう(明子)-「哲学的自殺」を望む肥大した自我>1905年19歳~1971年85歳
・<石川啄木ー「天才」をやめて急成長した青年>     1905年19歳~1912年26歳
   
それぞれの人生の評伝を描くにはあまりにも短く物足りない面もあるが、同じ時代を生きた文学者たちのそれぞれの自我、近代的自我や西欧との葛藤、あるいは女性としての社会との葛藤など、戦争へと突き進む大きな時代のうねりの中で大衆社会と文学者としてのそれぞれの個の確執が描かれていて興味深い。
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