「激怒」フリッツ・ラング

imagesCAJ4CNCZ.jpg

フリッツ・ラングが「メトロポリス」「M」などをドイツで撮った後、ナチスが台頭し、逃れてアメリカに行ってハリウッドで撮った最初の作品。

この映画は、大衆というものが怒りや不満から、ちょっとしたキッカケで暴徒化する危うさを描いた問題作である。最初はメロドラマを思わせる男女のデートシーンから始まる。寝室のショーウィンドーを眺めながら愛を語る二人。しかし貧乏なため二人はすぐに結婚できず、キャサリン・グラント(シルヴィア・シドニー)は別の町で働くことになり、離ればなれになる。数年後、やっとお金がたまってキャサリンに会いに行くジョー・ウィーラー(スペンサー・トレーシー)。彼が来るのを楽しみに待つキャサリン。そんなときに、車で移動途中の田舎町でジョーが誘拐犯と間違えられて保安官に捕まってしまう。この映画、ここからの展開が尋常でないのだ。

卑劣な誘拐犯が捕まったと町で噂となり、次々とその噂が広まっていく。憎くて許せない誘拐犯。町の人々の怒りは増幅され、噂はどんどん誇張され、犯人を見せろ、リンチにしてしまえ…と保安官事務所を人々が取り囲むのだ。このヒステリックに暴れ出す町の人々の描写は、かなり唐突で極端だ。この描写に当時のナチスの影が感じられるのかもしれない。日常の人々の不満がちょっとしたキッカケで暴発する。大衆の怒りは増幅され、誰も押しとどめられない。大衆が冷静さを失って暴徒化する場面は、当時の社会状況を反映していると言えるだろう。それくらい不況で人々の不満は溜まっていた。これは現代にも通じる大衆の怒りの同調と増幅である。いつだって「悪」だと決めつけられた者には、大衆は情け容赦なく怒りや憎しみを増幅させてぶつける。いわば「社会の生け贄」である。

保安官事務所には、火がつけられ、炎の中で留置所に取り残されるジョーを見つけ、キャサリンは気絶する。しかし、ジョーは奇跡的に火事の中で生き延びていた。無実の罪で殺されそうになった町の人々への恨み、怒りでジョーはまったく別の人格になる。前半の風貌とは全く違う恐ろしい形相で、町の人々への復讐を決意する。「リンチ殺人」という罪で暴徒化した首謀者たちを弟たちに裁判で訴えさせたのだ。ジョーの恨みが復讐の暴力を発動させる。暴力の連鎖だ。しかし、最後はキャサリンがジョーの口ぐせから、彼がまだ生きていることを見破り、出廷することを説得する。そして突然、死んだはずのジョーが裁判に現れ、町の首謀者22人は死刑を免れるのだ。

レインボーという犬とか、町の噂が広まる場面や床屋のシーンなどコミカルな部分も描きつつ、大衆が暴徒化する危うさ、無責任さ、個人がその力に屈服してしまう怖さを描いている。それでもその復讐を正当化せずに、キャサリンの愛情がジョーを正気に戻らせる。社会派とも言える作品だが、決して陰鬱な映画ではない。ただ、突然暴徒化する群衆の描写は、すさまじい。ニュースの撮影クルーまで登場し、知事は選挙のことを考えて町の人々に非難されないよう警備隊の出動を遅らす。人間の無責任な暴力や欺瞞や闇が見事に描かれている。


原題 Fury
製作年 1936年
製作国 アメリカ
監督:フリッツ・ラング
脚色:バートレット・コーマック、フリッツ・ラング
原作:ノーマン・クラスナー
製作:ジョセフ・L・マンキウィッツ
撮影:ジョセフ・ルッテンバーグ
キャスト:シルビア・シドニー、スペンサー・トレイシー、ウォルター・エイブル、ブルース・キャボット、エドワード・エリス

☆☆☆☆4
(ケ)
スポンサーサイト

テーマ : DVDレビュー
ジャンル : 映画

tag : サスペンス ☆☆☆☆4

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


twitter 719hideyosi

最新記事
お気に入り度
テレビドラマ「カルテット」
映画あいうえお順
カテゴリ
映画ジャンル&☆ランク
映画監督別
アキ・カウリスマキ
アラン・レネ
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
アルフレッド・ヒッチコック
アンドレイ・タルコフスキー
イエジー・スコリモフスキ
イザベル・コイシェ
ウェス・アンダーソン
ウディ・アレン
ヴィム・ヴェンダース
エドワード・ヤン
エミール・クストリッツァ
エリック・ロメール
オーソン・ウェルズ
ガス・ヴァン・サント
ギジェルモ・アリアガ
クエンティン・タランティーノ
クリント・イーストウッド
グザヴィエ・ドラン
コーエン兄弟
サム・ペキンパー
シドニー・ルメット
ジム・ジャームッシュ
ジャック・ロジエ
ジャン=リュック・ゴダール
ジョン・カサヴェテス
タヴィアーニ兄弟
ダルデンヌ兄弟
テオ・アンゲロプロス
テリー・ギリアム
ニキータ・ミハルコフ
ニコラス・レイ
パトリス・ル・コント
ハワード・ホークス
ビリー・ワイルダー
フェデリコ・フェリーニ
ファティ・アキン
フランソワ・オゾン
フランソワ・トリュフォー
ペドロ・アルモドバル
ポール・トーマス・アンダーソン
マイケル・ウィンターボトム
ミヒャエル・ハネケ
ラース・フォン・トリアー
ロバート・アルトマン
ロベール・ブレッソン
ロマン・ポランスキー

青山真治
今村昌平
犬童一心
石井裕也
大森立嗣
小津安二郎
北野武
宮藤官九郎
熊切和嘉
神代辰巳
黒沢清
是枝裕和
鈴木清順
園子温
成瀬巳喜男
西川美和
濱口竜介
深田晃司
藤田敏八
前田司郎
三木聡
山下敦弘
吉田喜重
読書感想・作家別
月別アーカイブ
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
映画
249位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
レビュー
119位
アクセスランキングを見る>>
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
映画ベスト10 2009~2016年
2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
    マイ・ファニー・レディ
    キャロル
    シング・ストリート 未来へのうた
    リザとキツネと恋する死者たち
    グッバイ・サマー
    サウルの息子
    マジカル・ガール
    ブリッジ・オブ・スパイ
    手紙は憶えている
<日本映画>
    淵に立つ
    クリーピー 偽りの隣人
    海よりもまだ深く
    ふきげんな過去
    SCOOP!
    永い言い訳
    オーバー・フェンス
    ディストラクション・ベイビーズ
    葛城事件
    湯を沸かすほどに熱い愛
    次点この世界の片隅に


2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
    ソニはご機嫌ななめ

<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
    百円の恋
    この国の空


2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
    罪の手ざわり
    ウルフ・オブ・ウォールストリート
    ジャージー・ボーイズ
    インサイド・ルーウィン・デイヴィス
    6才のボクが、大人になるまで。
    フランシス・ハ
    ウォールフラワー
    ある過去の行方

    <日本映画>
    そこのみにて光輝く
    ニシノユキヒコの恋と冒険
    紙の月
    Sventh Code
    私の男


      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
検索フォーム
ブックマーク
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
FC2カウンター