「そこのみにて光輝く」佐藤泰志

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映画を観たので、原作を読んでみた。『海炭市叙景』と同じ流れだ。『そこのみにて光り輝く』は佐藤泰志の唯一の長編小説で、三島由紀夫賞、野間文芸新人賞の候補に挙がったが、受賞は逃した作品だそうだ。

小説は、「そこのみにて光輝く」という達夫と拓児のパチンコ屋でのライターのやり取りから始まる出会いと、拓児の姉・千夏と達夫との運命的な出会いを中心に描かれる第一部と、達夫と千夏が結婚して子供も生まれた数年後を描いた「滴る陽のしずくにも」の二部構成になっている。第二部では、松本という鉱山採掘で片目を失った男と達夫との友情が中心であり、さらにその松本の別れた妻・和江という女が登場する。千夏とその弟・拓児との三角関係は、松本とその元妻のと三角関係へと変奏される。映画は、その第二部をバッサリと切り捨て、第一部の3人を中心に凝縮して描かれている。第二部で現れる松本という山の男は、達夫の過去のトラウマと関わり、達夫を仕事に呼び戻すための存在(火野正平)へと変換された。映画は原作の淡々とした日常や時間感覚をうまく密度の濃いドラマに凝縮した。特に、ライター、紫陽花、バラック、海、光、祭り、鉱山などの描写や小道具が効果的に使われていて、脚本も演出も成功していると思う。

原作では、達夫は函館ドッグでの組合ストライキ労働運動からの逸脱が仕事をやめた背景として描かれている。そういう時代性を映画は一切排除している。あるいは、映画では、千夏の元夫の暴力が強調され、弟分の拓児の暴発のキッカケとなっているが、原作は第二部の千夏の過去へのチンピラの誹謗中傷が拓児の暴発になっている。ここでも、映画のドラマ性は原作ではアッサリと描かれているだけだ。

小説はあくまでも淡々とした日常が綴られている。決して劇的ではない。第一部の3人と第二部の3人が物語の中心であり、閉ざされた地方都市で、華やかな表舞台から裏舞台へと弾き出された人物たちが、出会うべくして出会った物語。お互いに知らず知らずに惹きつけられていくところがこの小説の肝だと思う。それは言葉や事件性などの物語ではなく、どこか心の内から感じられるもの、プラスとマイナスの磁石のようにお互いが無言のうちに引かれあっていくのだ。それはある意味、佐藤泰志の抒情的ロマンチシズムのようにも感じられる。特に千夏にしても、和江にしても男性が描く女性という気がする。佐藤泰志は、そういう出会いをどこか求めていたのだろう。そんな何も言わずにもわかりあえる関係性を求めつつ、持ちえなかった作家の哀しみがこの小説には託されているような気がする。

そして、海と山に挟まれた函館を風土を体現するかのように、登場人物たちも海と山に何かを求めている。海で泳ぎ、プールでも泳ぎ、太陽の光を浴びて眠り、何も考えずに時を過ごす場面が何度か描かれる。そして拓児は山(鉱山)に憧れ、希望を持ち、達夫もまた松本の導きのもと、山に新たな生きがいを見い出そうとする。地方都市の閉塞感に息詰まる男たちが、女と海と山に希望や救いを見出す物語でもある。

二部構成になったことで、千夏や拓児の存在が二部では希薄になっているのが残念だ。松本とその元妻に変奏されるのだが、長編小説としてはその二人の存在が脇役となり、希薄になるところが物足りないように思えた。

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