「地域再生の罠ーなぜ市民と地方は豊かになれないのか?」久繁哲之介

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地域再生の失敗事例を全国各地の具体事案を挙げながら鋭く指摘している本だ。簡単に言ってしまうと、箱モノ(ハード)の土建工学者や技術者優先の論理から転換し、ソフト力・心の交流の場の創出が大切だという話だ。経済効率優先の欲望丸出しの押しつけがましい戦略は、市民のニーズを捉えていない。地域資源を活用しながらの市民が居心地良く余計な気や金を使わなくていい心の交流が出来る場所づくりがまず必要だと久繁氏は説く。キーワードは、「健康・食・交流」だ。

人口50万人以内の中小規模の地方都市街中から、近い将来「百貨店などの物販主体の大型商業施設」はほとんどなくなると久繁氏は予言する。次々と撤退している大型商業施設の跡地に、また同じような大型商業施設を誘致・建設しても全く無意味であり、その箱モノ依存体質から抜け出さないと地方再生は出来ない。

宇都宮市ではファッションビル109を誘致し開業したが、わずか4年もたたないうちに撤退した。その理由は、若い女性たちの声をちゃんと聞いていなかったからだ。ファッションの先進テナントが入っていなければいけないところに穴埋め的に100円ショップが入っていたり、ファッションのことをわからない女性店員がいたり、周辺施設に八百屋があったりと、本物SHIBUYA109の表面だけを真似してもダメになるということだ。109という商業施設の箱モノではなく、最新ファッション文化というソフト力がないと意味はないのだ。

商店街再生も同じだ。松江市の天神商店街を例に挙げながら、イベントだけ盛り上がっても平日の昼間、全く人通りのない商店街では成功事例とは言えない。これからの商店街再生の提案として以下の4つを挙げる。

①車優先空間から「人優先空間」への転換
②出店者一人にリスクを押し付けず、市民が安心・連携して出店できる仕組みを創る。
③店舗個別の穴埋めをする発想をあらため、地域一帯の魅力を創造することを考える。
④商店街の位置づけを「物を売る(買う)場」から「交流・憩いの場」へと変える。


コミックマーケットの各地での盛況ぶりは、売り買いの場ではなく、「仲間内で楽しめる交流の場所」となっているからだ。松江市はカフェ文化が盛んであり、バリスタのチャンピオンもいる。だから「スターバックス」は出店できない。個人経営のカフェが強いのだ。そういった地域のソフト力、交流できる場所こそ必要なのだ。

また各地で行われている地域再生の前提「食のグルメ化・ブランド化」にも著者は疑問を投げかける。「グルメ化・ブランド化」は、大資本店舗との競争を避けられない。成功してもすぐに大企業に模倣されてしまう。品揃えや価格では、大資本スーパーや飲食店には勝てない。「グルメ化・ブランド化」をスローフードに進化させることが重要だと久繁氏は説く。需要を吸いとるだけの「物販主体の需要吸収型商業施設」から「飲食主体の需要創出型」店舗への転換。飲食店を核に、交流需要を創出することだ、と。スローフードの本質とは、家族や友人など身近にいる大切な人と余計な気と金を使わず、ゆっくりと楽しい時間を過ごすことにある。食を通じた「交流」なのだ。いかに「地場産品応援の店」と緑提灯で誇らしげにアピールしても、それが共感として伝わらなければ、ただの押しつけだ。応援は強要すべきものではない。論理の正しさで勝ち取るものでもない。応援の源は共感や愛情という「心」にある。ビジョンの重要性を論理的正しさで、上から目線で「市民に理解させる」のではなく、「共感」してはじめて存在価値がわかるのだ。

最近は「私益よりも公益を考え、重視できる」若者たちが増えているという。その変化をいち早く気付いて支援を始めているのは、私益をとことん追求するグローバリズムが最も進んでいるアメリカだという。「地域再生ビジョンの核は私益よりも公益、そして交流にある」と久繁氏は主張する。「商取引の場」から「人との交流の場」の創造へ。

「オヤジ視線」を嫌う女性たちの潜在的ニーズをつかんだ「女性限定のフィットネスクラブ」の成功は、「痩せるために行く場所」という前提を覆し、顧客の声の聞き、「心の拠りどころになるスポーツクラブ・居場所」の重要性に気づいたからだ。かつてのソニーのウォークマンのヒットも、技術優先の論理を覆し、音質を落としても携帯型「再生専用」の機械の必要性、ソフト力に気づいたからだ。「技術優先思考」「土建工学者優先の箱モノ思考」からの脱却。素晴らしい技術や箱モノを作れば、客や市民はそれに従うという発想から「顧客志向」へ舵を切ること。そして「健康・食・交流」を普遍的ニーズと捉え、市民が持続的、積極的に消費する環境をつくることだ。

田舎や郊外住宅地に静かに暮らしたい高齢者をコンパクトシティ―と称して街中に集約する無謀さを犯すのではなく、まず街中の低未利用地を活用し、楽しく交流できる場を作ること。電車待ちの駅前の場所や高齢者たちが楽しく憩えるスポーツクラブ、あるいは地域の資源を活用したスローフード飲食店を核に「地域愛」を育てる交流と憩いの場所、そのような公益空間は、たとえ赤字で利益が出なくても、戦略的施設として必要なのだ。私益追求者が公益に目覚める「交流」の場の創出こそ、地域再生の道なのだと久繁氏は主張する。

一番なるほどと思ったのが、上から目線の「論理的正しさ」ではなく「「共感」だということだ。グローバリズムに対抗するためには、地域で地元と食材を支えるしかないという論理的正当性は、市民の心には響かない。少しでも安くという経済性には太刀打ちできない。それよりも「あの人が作る作物だから買おう」という「共感」がなければ買い支えることなどできない。そこには「体験」や「共感」が不可欠なのだ。地場産品応援という論理ではないのだ。
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