「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」コーエン兄弟

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去年のカンヌ映画祭グランプリ作品ながら決して派手な映画ではない。むしろ地味な映画だ。コーエン兄弟特有の雪だるま式不幸の連続というわけでも、ブラックでヘンテコなユーモアがあるわけでも、凶悪な犯罪が描かれるわけでもない。地味なフォークソングの音楽映画である。冒頭からじっくりとフルコーラスでフォークソングを聴かせる。主演のオスカー・アイザックのギターと歌声をそのまんま。ボブ・ディラン誕生前夜、この時代のフォークソングに魂を揺さぶられた人々の物語。そしてボブ・ディランになれなかった男の無名の負け犬人生である。(実在した伝説のフォーク・シンガー、デイヴ・ヴァン・ロンクの回想録が元ネタらしい)。だけど、その負け犬人生ぶりが、なんだか哀愁があって心に響く。これは失われた魂を抱えて彷徨う男の孤独なロードムービーである。

冒頭のヘンテコな首を吊られる男の歌の後で、ルーウィン・デイヴィスが店の裏の路上で殴られる場面から始まる。負け犬男の人生そのもののようだ。そして友人の家のソファーで寝た翌朝、猫を部屋から逃がしてしまい、彼の不運続きの人生が描かれる。売れないレコードの山、金もなくコートもなく友人の家を泊まり歩くその日暮らし。一度手を出した歌手仲間のジーン(キャリー・マリガン)に妊娠を告げられ、仕方なく預かる羽目になった猫は逃走。ジーンの怒涛の悪態(笑えるシーンだ)。町で猫を見つけるもそれはニセモノ。泊まる家もなく再びやってきた友人の教授の家で、かつての相方の歌のパートを奥さんに歌われ、悪態をつきまくる。そして、仕事を求めてシカゴへ行くも、道中のトラブル、「金の匂いがしない」とライブハウスのプロデューサーに見抜かれ、寒い雪の中をトホホと彷徨う。歌を諦めて、船に乗る決意をするが会費を払っていなくて、しかも船員証まで姉に捨てられ、船にも乗れない。最後はバーで野次をとばして散々の荒れ方だ…。そして冒頭の殴られるシーンへと戻っていく。冒頭と同じシーンで円は閉じるのだが、その前の教授宅の家を再び出るとき、ルーウィン・デイヴィスは今度は猫を逃がさない。猫を居るべき場所にちゃんと居させたのだ。

言うまでもなくの映画の重要なキャラクターは猫だ。ルーウィン・デイヴィスの失われた相方の表象、あるいは死の世界の使者、あるいは神の使い?そんな役割で猫はルーウィン・デイヴィスについて回る。時には、ユリシーズという友人の雄猫として、そして窓から逃げて別の雌猫に入れ替わり、ドライブの道連れとなり、深夜の路上で車に轢かれそうになったりもする。猫は何かの使いなのだ。彷徨う友の魂・・・。

シカゴへ向かう途中、ドライバーだったミュージシャン(F・マーレイ・エイブラハム)が警察に連れて行かれ、ヤク中毒?で気を失ったジョン・グッドマンと道中一緒だった相棒の猫を彼は車に置き去りにする。その時の猫がなんとも名演技だ!彼のかつての相棒が本当にジョージ・ワシントン・ブリッジから飛び降り自殺したのかどうかよくわからないが、ルーウィン・デイヴィスは二度までも相棒に捨てられ、見捨てたのだ。そして猫を轢き殺しかけ、運にとことん見放される。それでも、死にゆく父の前で昔の唄を歌い、最後の方で、非礼を謝りに行った教授宅で猫のユリシーズは自分から家に戻ってきていた。だからラストのステージでの歌は、なんだか感慨深い。鎮魂としての歌。相棒の死の魂を抱えて彷徨い続けたルーウィン・デイヴィス、不運と孤独の八方ふさがりの果てに開き直るように一人唄を歌う。そんな彷徨う男たちの歌、そんな孤独な魂の積み重ねが、ボブ・ディランのような時代の寵児を出現させた。そしてあのフォークソングの時代を築いたのだ。無名な男たちの魂の彷徨があの時代、いつだって路上に溢れていたのだ。

ジャスティン・ティンバーレイクとキャリー・マリガンの美しき歌声「♪500マイルも離れて」も良かったなぁ。

原題 Inside Llewyn Davis
製作年 2013年
製作国 アメリカ
配給 ロングライド
上映時間 104分
監督:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
製作スコット・ルーディン、ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
製作総指揮:ロバート・グラフ
脚本:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
撮影:ブリュノ・デルボネル
美術:ジェス・ゴンコール
衣装:メアリー・ゾフレス
音楽:T=ボーン・バーネット、マーカス・マムフォード
キャスト:オスカー・アイザック、キャリー・マリガン、ジョン・グッドマン、ギャレット・ヘドランド、F・マーレイ・エイブラハム、ジャスティン・ティンバーレイク、スターク・サンズ、アダム・ドライバー

☆☆☆☆4
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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