「ふしぎな岬の物語」成島出

岬

試写会で観た。吉永小百合のための吉永小百合の映画である。彼女が原作に惚れ込んで、この映画を企画し、まさに彼女のために作られたと言えるだろう。なんてったって69歳でヒロインを演じ、登場人物の阿部寛も鶴瓶も笹野高史もみんなヒロインの岬カフェの店主、吉永小百合演じる柏木悦子が好きなのだ。この年齢でそんなヒロインを演じられるのだから、まさに不思議な存在である。この映画は、モントリオール世界映画祭で審査員特別グランプリを受賞して話題になった。心温まる地域の人々の物語である。

そして、死の世界の人々が生きている人たちを支えてくれているという映画である。吉永小百合の甥を演じる阿部寛が海で亡くなった伯父さんのために明かりのついたカンテラを夜の海に向かって毎夜、回し続ける。そのシーンがいい。死の世界へ向けてのメッセージのようだ。虹の絵を描いた吉永小百合の夫は、岬の店で働く彼女を見守っている。吉永小百合演じる柏木悦子は、毎朝、その夫の存在を感じている。ここの岬の人たちは、死の世界の人とともに暮らしているようなのだ。そして死んだ夫は、死の世界からある少女にメッセージを送り、店にかかっている虹の絵を少女が取りに来るという不思議なエピソードがある。死の世界の人たちに見守られながら生きている人たち。それはある意味で、大切な人を亡くしてしまった傷ついた人たちでもある。あるいは死の怖れを抱えている人。あるは人生がうまくいかない人たち。そんな人たちが、岬カフェに集まってくる。岬カフェの美味しいコーヒーに惹かれ、吉永小百合演じる柏木悦子の温かさに癒される。それは人生の闇夜に浮かぶ灯台の光のような温もりだ。

モントリオール映画祭で、キリスト教関連団体が独自に審査員を派遣して審査し、贈るという『エキュメニカル審査員賞』も受賞したという。キリスト教も仏教もこの映画のなかでは扱われている。特定の宗教ではない。そこにあるのは死の世界への敬意と呼べるものだ。生きている人たちだけが、死んでいる人たちのことを思い出す。海や虹の向こうに、その存在を感じる。死の世界の人々を感じることは、生きている人たちの特権だ。死はいつだって、生の世界の側にあるのだ。地域の祭りも描かれるが、死の魂への鎮守と感謝こそが、祭りの意味である。そんな生きていることのささやかな喜びと感謝を感じられる心温まる映画である。

道化役の阿部寛が好演。笹野高史演じる父と娘(竹内結子)の葛藤もある。美味いコーヒーが飲みたくなる映画だ。


製作年:2014年
製作国:日本
配給:東映
監督:成島出
企画:吉永小百合、成島出
原作:森沢明夫
脚本:加藤正人、安倍照雄
撮影:長沼六男
照明:宮西孝明
美術:横山豊
音楽:安川午朗
キャスト:吉永小百合、阿部寛、竹内結子、笑福亭鶴瓶、笹野高史、小池栄子、春風亭昇太、井浦新、吉幾三、杉田二郎、堀内孝雄、ばんばひろふみ、高山巌、因幡晃、片岡亀蔵、中原丈雄、米倉斉加年

☆☆☆3
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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