「ブギーナイツ」ポール・トーマス・アンダーソン

img_1.jpg

「ザ・マスター」「 ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」「パンチドランク・ラブ」「 マグノリア」など寡作ながら重厚な問題作を撮りつづけているポール・トーマス・アンダーソンの初期作品。70年代から80年にかけてのアメリカのポルノ映画界の話で、これはいたって単純なストーリー。親にも認めてもらえない鬱屈した青年が自らの巨根(35センチのビッグサイズ!ボカシで見えないが、何度も映像表現される過激さ)を武器に、ポルノ映画界でスターにのし上がっていく成功物語が前半部。ここまでは巨根描写以外は普通な感じ。ポール・トーマス・アンダーソンの真骨頂はここからだ。スターになって勘違いしだした男が、拾ってくれた監督ジャック(バート・レイノルズ)とケンカ別れをし、自分だけの力で生きようとするのだが、何をやっても上手くいかない。下手くそな唄を歌ってレコードデビューしようとして出来なくて、ヤクにはまり、昔のように自らの巨根で小銭をもらおうとして殴られて惨めな姿に。ついにはヤクがらみの詐欺、現金強奪を企むが、イカれたヤク中毒の男にマグナムをぶっ放されて銃撃戦に巻き込まれ堕ちるところまで堕ちていく(このシーンのイカレかたもすごい)。一方、ポルノ映画界の関係者はことごとく一般社会から差別される現実。そして、ポルノ映画界にもビデオ時代の波が押し寄せて、時代に翻弄される映画人たちも描かれる。後半の暴力描写の破滅感がなんともすさまじい。

特に面白いのが、映画からビデオの世界に転身したジャックの取材クルーが、高級車の車内で通行人の男を引き入れて女とやらせてしまう撮影の場面だ。プロたちが共同作業で夢を作リあげていく映画(ポルノ映画でも同じことだ)とは違って、ビデオはリアリティが勝負。そこには現実のなまなましさが介入し、プロ意識のない素人を使っての撮影が多くなる。高級車内のセックス撮影は、素人の男のおかげでメチャクチャになり、ポルノ映画のプロたちも現実の苦々しさを味わう羽目になる。

ポール・トーマス・アンダーソンの映画の特徴として、ドラッグとセックスがいつも描かれる。それは人間の欲望を描きたいからだ。そして権力や暴力、さらに金や宗教もたびたび登場する。そこでは集団を率いるボスやカリスマが描かれ、その中での権力の確執も大きなテーマだ。この映画では、映画監督のジャックと成りあがりスターになったダーク・ディガー(マーク・ウォールバーグ)との物語が主軸で、や力の誇示や嫉妬や欲望や差別が彼らを取り巻く人々も含めて群像劇として描かれるのだ。80年になるニューイヤーパーティーでセックス狂いの妻を銃殺するシーンも脇役のエピソードながら強烈だ。ポルノの俳優だと差別され続けた黒人が、ドーナッツ屋で事件に巻き込まれるエピソードのシーンも秀逸だ(タランティーノの映画のようだ)。脇役のストーリーなど群像劇として立体的に映画を組み立てられるところがこの監督の凄いところだ。冒頭のシーンなど、長めのワンカットが度々使われる映像表現も面白い。

まぁ、アメリカ映画界にとって異色な存在であるポール・トーマス・アンダーソンのと権力を扱ったヘンな映画である。そもそも巨根思想そのものが男社会の歪んだ権力意識の表れなのだと思うけどね。先日亡くなった名優、フィリップ・シーモア・ホフマンが若い!

原題:Boogie Nights
製作年:1997年
製作国:アメリカ
配給:ギャガ・コミュニケーションズ
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
製作総指揮:ローレンス・ゴードン
製作ロイド・レビン、ポール・トーマス・アンダーソン
キャスト:マーク・ウォールバーグ、バート・レイノルズ、ジュリアン・ムーア、ヘザー・グラハム、ジョン・C・ライリー、 フィリップ・シーモア・ホフマン、アルフレッド・モリナー

☆☆☆☆4
(フ)
スポンサーサイト

テーマ : TVで見た映画
ジャンル : 映画

tag : ☆☆☆☆4

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


twitter 719hideyosi

最新記事
お気に入り度
テレビドラマ「カルテット」
映画あいうえお順
カテゴリ
映画ジャンル&☆ランク
映画監督別
アキ・カウリスマキ
アラン・レネ
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
アルフレッド・ヒッチコック
アンドレイ・タルコフスキー
イエジー・スコリモフスキ
イザベル・コイシェ
ウェス・アンダーソン
ウディ・アレン
ヴィム・ヴェンダース
エドワード・ヤン
エミール・クストリッツァ
エリック・ロメール
オーソン・ウェルズ
ガス・ヴァン・サント
ギジェルモ・アリアガ
クエンティン・タランティーノ
クリント・イーストウッド
グザヴィエ・ドラン
コーエン兄弟
サム・ペキンパー
シドニー・ルメット
ジム・ジャームッシュ
ジャック・ロジエ
ジャン=リュック・ゴダール
ジョン・カサヴェテス
タヴィアーニ兄弟
ダルデンヌ兄弟
テオ・アンゲロプロス
テリー・ギリアム
ニキータ・ミハルコフ
ニコラス・レイ
パトリス・ル・コント
ハワード・ホークス
ビリー・ワイルダー
フェデリコ・フェリーニ
ファティ・アキン
フランソワ・オゾン
フランソワ・トリュフォー
ペドロ・アルモドバル
ポール・トーマス・アンダーソン
マイケル・ウィンターボトム
ミヒャエル・ハネケ
ラース・フォン・トリアー
ロバート・アルトマン
ロベール・ブレッソン
ロマン・ポランスキー

青山真治
今村昌平
犬童一心
石井裕也
大森立嗣
小津安二郎
北野武
宮藤官九郎
熊切和嘉
神代辰巳
黒沢清
是枝裕和
鈴木清順
園子温
成瀬巳喜男
西川美和
濱口竜介
深田晃司
藤田敏八
前田司郎
三木聡
山下敦弘
吉田喜重
読書感想・作家別
月別アーカイブ
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
映画
169位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
レビュー
73位
アクセスランキングを見る>>
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
映画ベスト10 2009~2016年
2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
    マイ・ファニー・レディ
    キャロル
    シング・ストリート 未来へのうた
    リザとキツネと恋する死者たち
    グッバイ・サマー
    サウルの息子
    マジカル・ガール
    ブリッジ・オブ・スパイ
    手紙は憶えている
<日本映画>
    淵に立つ
    クリーピー 偽りの隣人
    海よりもまだ深く
    ふきげんな過去
    SCOOP!
    永い言い訳
    オーバー・フェンス
    ディストラクション・ベイビーズ
    葛城事件
    湯を沸かすほどに熱い愛
    次点この世界の片隅に


2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
    ソニはご機嫌ななめ

<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
    百円の恋
    この国の空


2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
    罪の手ざわり
    ウルフ・オブ・ウォールストリート
    ジャージー・ボーイズ
    インサイド・ルーウィン・デイヴィス
    6才のボクが、大人になるまで。
    フランシス・ハ
    ウォールフラワー
    ある過去の行方

    <日本映画>
    そこのみにて光輝く
    ニシノユキヒコの恋と冒険
    紙の月
    Sventh Code
    私の男


      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
検索フォーム
ブックマーク
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
FC2カウンター