「海を感じる時」安藤尋

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長回しの間合いの映画である。短いカットを積み重ねて、編集でリズムを作るような映画ではない。だからなんとなく間延びしているようにも感じる。まったりとした恋愛映画である。市川由衣のヌードや性描写が話題になっているが、今の映像の編集のテンポに慣れている人たちには、かったるく感じるだろう。たとえば、服を脱いでベッドや布団に入る場面を同じワンカットで撮っている。服を脱ぐ動作がそのまま編集されずに映されている。最初の新聞部の部室での初めてのキス。二人が間合いを詰めて、キスするまでの時間をじっくりゆっくり撮っている。顔のアップの切り替えしなど入れない。芝居の間合いたっぷりに、その実時間をそのまま引きの画面で撮りつづける。そんな場面ばかりなのだ。だから、テンポは出ない。まったりとしてくる。そこに空気の密度を感じられないと、ただただかったるいだけの映画になる。

酔っぱらった恵美子(市川由衣)が公園で電燈に石をぶつけるシーンがある。何度も石を投げるが当たらない。しばらくすると、さっき店にいた男がやってきて、彼女のそばにくる。男の顔は見えないが、カメラはずーっと俯瞰ショットで長回ししている。あるいは、植物園で「ついてくるな」と洋(池松壮亮)が走り去ろうとするのをひたすら恵美子が追いかける場面がある。「してくれなきゃ、帰れない」と、恵美子が座り込んでしまう予告編でも使われている場面だ。これも、決して恵美子の顔をアップで撮ったりはしない。画面は引きのままだ。

つまり、もどかしいまでの戸惑いやジタバタ感やどうしていいかわからない登場人物たちの行動を、カメラは執拗なまでの芝居そのままの間合いで捉え続ける映画なのだ。ある意味、若い二人の役者たちを信頼した作りかただ。決して、編集やカメラの映像テクニックでごまかしたりはしない。そういうところが好感が持てる映画だった。

ただ当時18歳の作家の中沢けいが1978年に発表した作品を、なぜ今さらやるの?という疑問は解けないままだった。荒井晴彦の脚本は、30年前に書かれたものをほとんどそのまま使ったという。映画の時代設定は、当時のものだ。アパートも古臭いし、二人の服装も当時を意識している。恵美子が新聞部に部室で「朝日ジャーナル」を読んでいるというのも、なんだかとってつけたようなわざとらしさだった。市川由衣や池松壮亮の身振りや口調には、当時を感じさせてくれるようなものはない。そのギャップが、なんだか居心地の悪いものだった。あの時代の男女の何かが、今に響く何かになっているのか。あの時代の男女を見て、今の人たちが共感できる何かがあるのか。

男女の性の葛藤と親との確執、そして成長の物語は確かに普遍的なものだ。母親役の中村久美は熱演していて、親の子供に対する思いもしっかりと伝わってくる。ただ、今の時代感覚の親子関係では当然ない。抱いてもらえることを必死に洋に懇願する恵美子の女性像もまた現代の女の子たちと比べると大きな隔たりがある。いまどき、こんな一図で必死な女の子はいないだろう。だからこそ、この時代の男女のひたむきさ、不器用さ、真面目さにこそ、現代の若者たちが取り戻すべき何かがあるというのか。よくわからない。

脚本の荒井晴彦の監督作品で「身も心も」というのがあった。音楽に下田逸郎の「セクシィ」(石川セリの歌)が使われていたのを記憶している。今回のエンディングテーマも同じ下田逸郎の「泣くかもしれない」をホームレスハートがカバーしている曲を使っていた。きっとこれは、荒井晴彦の趣味なんだろう。下着姿で「海を感じている」恵美子の思いに、いい感じで最後に歌が流れてくる。確かに、あの頃の音楽でもちゃんとアレンジや歌う人が変わると、今の時代でも心に響いてくる。そんな風にこの映画がなっているかが評価の分かれ目なんだろうな。この歌、「泣くかもしれない」のように。


製作年:2014年
製作国:日本
配給:ファントム・フィルム
監督:安藤尋
製作:藤本款、重村博文、小西啓介
プロデューサー成田尚哉尾西要一郎
原作:中沢けい
脚本:荒井晴彦
撮影:鈴木一博
キャスト:市川由衣、池松壮亮、阪井まどか、高尾祥子、三浦誠己、中村久美

☆☆☆3
(ウ)
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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