「ソニはご機嫌ななめ」ホン・サンス

ホン・サンスは男と女の世界を皮肉を込めて淡々と描く。フランス・ヌーヴェルヴァーグのエリック・ロメールの正当な後継者だと思う。加瀬亮が出演している新作「自由が丘で」をうっかり見逃してしまったが、その前作であるこの作品は観ることができた。
まったく笑える映画だ。人をくったようなワンシーンワンカット。ホン・サンスはズームやパンも使いながら、ワンカット長回しが好きなのだ。それもクレーンやドーリーなど移動撮影を多用するカッコいいワンカットではなく、まるで素っ気ないワンカットだ。この映画では、出会いのシーン(公園が多い)をワンカットで撮ったかと思うと、あとはほとんどお店でお酒を飲んでいる男女を横から2ショットで撮影するだけ。顔の表情の切り返しやアップは全くなく、ただただ二人の会話を横から撮りつづける。まったく時間もお金がかかっていない映画だ。芝居はワンカット長回しなので、何度かリハーサルをしたうえでの撮影で、役者はそれなりに台詞を覚えるのが大変かもしれないが、おそらくそんなにロケ日数もかけずに撮影できた映画だろう。
そんな安上りの映画だからと言って、決して内容はチープな映画ではない。人間そのものの愚かさや狡さや下心や不安や絶望や希望や自分でもわからない不確かさが描かれている。見ていて特に浮き彫りにされるのは、男の愚かさだ。一人の女性をめぐる4人の男の物語だ。魔性の女とも言える男たちを惑わすカワイイ女、ソニ。しばらく姿をくらましていたソニがアメリカ留学の推薦状をもらうために教授に会いに来る。そこで大学教授、元カレ、そして先輩の映画監督の3人の男がソニと再会し、それぞれ酒を飲みながら、ソニに惹かれていく。元カレはよりを戻そうと必死だし、大学教授は推薦文をソニのために書き直し、先輩の映画監督も思わせぶりなソニに簡単に参ってしまう。
ソニはそれぞれの男たちが自分に好意を持っていることを知りながら、巧みに男たちと絡む。3人の男たちは、ソニのことをお互いに語り合い、ソニの魅力を語り、ソニに会いたがる。結局、最後は公園で3人の男がソニを探しながら鉢合わをするのだ。
カワイイ女には男は弱い。ソニが自分に好意を見せるとすぐにまんざらでもない感じになり、もっと深い関係になろうと悶々とする。まったく男というやつは、単純でバカみたいだ。その点、ソニは何を考えているのかわからない。本当にアメリカ留学したいのか、田舎に帰りたいのか、映画を撮りたいのか、大学教授を好きなのか、もっと自信を持ちたいのか、ずっと自分探しをしているのか、観客も最後までソニのことがよくわからない。謎の女とその女に振り回される3人の男。そういう男目線の映画である。そんな男女を皮肉を込めて描いていて、それがなんだか面白いのだ。
原題:Our Sunhi
製作年:2013年
製作国:韓国
配給:ビターズ・エンド
上映時間:88分
監督:ホン・サンス
脚本:ホン・サンス
撮影:パク・ホンニョル
編集:ハム・ソンウォン
音楽:チョン・ヨンジン
キャスト:チョン・ユミ,イ・ソンギュン,キム・サンジュン,チョン・ジェヨン
☆☆☆☆4
(ソ)
スポンサーサイト
tag : 愛