「羆撃ち」久保俊治(小学館文庫)

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生きる基本がここにある。2009年にこの本は書かれ、2012年に文庫化された北海道の熊撃ちの話だ。しかも北海道に生息するひときわ大きなヒグマ(羆)を撃つ日本では珍しいプロのハンターの半生だ。

最近、日本ハム・ファイターズの栗山監督が、この北海道の猟師・久保俊治さんに会いに行ったとニュースで話題になった。栗山監督もまた、この本を読んで、久保さんの猟師としての生きざまに感動したという。この本のことは気になっていたのだが、遅ればせながらやっと読んだ。久保氏の文章は、朝日新聞のコラムで、鹿猟のことを書いていたのを読んだことがあった。だから、その文章力が素晴らしいのは知ってはいた。だが、この本を読んで、その圧倒的な臨場感溢れる山での描写力に驚かされた。読んでいると、今まさに山で熊を追いつめている緊張感が伝わってくる。そして、何よりも厳しい自然と向き合うその孤高なる精神に感動した。人間が自然の中で古来から生きてきたその根本の心構えというか、生きざまの原点がここにある。こんな人間は、今の時代、もうきわめて希少価値である。だけど、誰もの心に響く何かがこの本にはある。

動物と人間。命を奪うものと奪われるものの1対1の過酷な関係。厳しい自然の中で動物に対する畏敬と感謝、その尊厳を大切にしつつ、命を奪うものの心構えがここにある。それは一種の共生関係であり、友情にも近い心の交感を、彼は猟を通じて動物と相対している。命を奪うものが、いつ奪われるものに逆転されるとも限らない緊張と恐怖。そして、その不安と闘いながら、追いつめていく興奮。そして、仕留めたときの達成感と歓び。同時に感謝と動物への尊敬。まさに生きているものの尊厳がここにある。動物も人間も。決して、単なる獲物ではないのだ。だから彼は、獲物を苦しめずに一発で仕留めようとする。一発で仕留められるように、動物との距離を縮められるまで、じっとチャンスをうかがうのだ。

初めて羆を撃った時、何発も撃ってしまい、その時の羆を苦しめたことに彼はずっと悔恨を感じている。苦しめて死んだ肉より、苦痛や恐怖をほとんど感じずに撃たれた肉の方が旨いのだという。さらに、寒さに震え鹿を仕留め、腹を裂く。その鹿の内臓に手を入れることで、その生きていた温もりを感じる。命の温もりと共に生かされていることを実感する。

羆という人間を襲うほどの巨大な動物。その羆を追って山に入る猟師の久保氏。足跡やにおい、音や気配。雨や風や雪。あらゆる痕跡を羆の気持ちになって追いかける。人はほとんど出てこない。山の中での描写ばかりだ。春の気配の変化や落ち葉を踏みしめ、冬眠する羆と同じようにどんぐりの実を探す秋。冬の山で野営しながら、じっと時を待つ。人が出てこないし、会話などないのにちっとも読んでいて飽きない。どんどん森の中の世界に引き込まれていく。だから、アメリカでのハンター修行に行く場面の描写が逆につまらない。プロのハンターとしての腕試しをアメリカで久保さんはするのだが、そこには動物と人間の1対1の関係はない。あくまでも趣味としての狩猟の手助けなのだ。人間優位の世界。憧れた西部劇の景色はあるが、自然はすでに獲物を得るための対象でしかない。

だから、再び北海道の山に戻ってきての立派な猟犬に育てたフチとの感動的な別れの場面は、痛いほど胸に響く。動物や自然との緊密な関係があるからだ。久保さんのパートナーになった愛犬フチへの思い。それは、恋人との永遠の別れのようにせつなく哀しい。愛犬フチとのラブストーリーとしても読めてしまうのだ。久保さんの独特な孤独な生き方はハードボイルド小説のようであり、ラブストーリーでもあり、自然との過酷な対話のノンフィクションでもある物語だ。

久保さんのような自分に厳しい生き方は誰も真似できないけれど、こういう考え方や思いは忘れないでいたいと思った。おススメの本である。
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
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    7,「SOMEWHERE」
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    9,「エリックを探して」
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    3,「あぜ道のダンディ」
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    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

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2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
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<日本映画>
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