「フォックスキャッチャー」ベネット・ミラー

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ベネット・ミラーの「カポーティ―」は素晴らしかった。トルーマン・カポーティのノンフィクション小説「冷血」を書き上げた6年間の伝記映画。カポーティーを演じたフィリップ・シーモア・ホフマンが素晴らく、抑制のきいた静かな映像演出が印象に残っていた。だから、実話の銃撃事件を元にしたこの映画を「カポーティ―」のベネット・ミラーが監督したと聞いて、これもまたいい映画だろうと予想はしていた。

予想通り抑制のきいた演出で、今回はデュポン財閥の御曹司である大富豪ジョン・デュポンをスティーヴ・カレルが好演していた。彼はもともとコメディアンなのだという。出世作「40歳の童貞男」は未見だが、 「リトル・ミス・サンシャイン」は観ている。全く重ならないぐらい今回の役は、静かで不気味だ。

アマチュアレスリングの世界。冒頭からガッシリとした肉体がぶつかり合い、腕と腕、肌と肌をパチパチと叩き合い、前と後ろに体が絡まり合い、男同士の肉感的な世界が展開される。音楽はほとんど使われず、靴のキュッキュッとする音、ハァハァという選手の荒い息遣いが印象に残る。

「フォックスキャッチャー」とはキツネ狩りをする猟犬のこと。イギリスの貴族の間でそんなキツネ狩りが行われていたらしい。大富豪のジョン・デュポンはキツネ狩りをする猟犬たちのようにオリンピックの金メダルをレスラーたちを集めて狙わせるフォックス・キャッチャーというチームを作った。広大な敷地と豪華な練習施設。そこの庭では、拳銃の射撃訓練が行われたり、戦車のような武器まで買っていたりする。武器マニアでレスリングも金持ちの道楽のようだ。それで愛国者を気取っている。一方で、孤独な面も描かれる。初めてできた友達は、母親に金で買われた運転手の息子だった。金、力、支配、権力志向。そんなものがこのジョン・デュポンの脳内を支配し、レスラーたちも金と権力で支配できると思っている。人生の師として尊敬され、金メダル選手を育てたアメリカ愛国者としての自らの人生のドキュメンタリーまで作らせてしまう男だ。しかし、乗馬をやる母親には認めてもらえず、レスリングなど低俗なものと見下されている。寂しい孤独な男なのだ。

そんなジョン・デュポンに呼ばれた1984年のロサンゼルス五輪の金メダル兄弟。兄は家族思いの優秀なコーチで勧誘を断り、孤独な弟マークは、貧しさから抜け出すためにジョン・デュポンについていく。最初は父親のように慕っていたマークだったが、次第にデュポンとの関係が変わっていく。セレモニーに行く途中のコカインの吸引や、深夜の絵画室でのレスリングの怪しげな練習。ハッキリと描かれてはいないが、男性同士の性的な関係がほのめかされる。この映画は、ハッキリと殺人の動機やケンカの原因を描きはしない。ジョンは練習場で突然拳銃をぶっ放したり、いきなり不機嫌になってマークをビンタしたり、母親の前で突然指導者ぶってみたり、少しづつジョン・デュポンの奇行ぶりがほのめかされるだけである。やがて、兄デイヴもコーチとしてチームに呼ばれ、家族で引っ越してくる。すでに距離ができつつあるジョンとマーク、間に入ってマークを盛り立てようとするデイヴ、この3人の関係がオリンピックの大会とともに微妙な感じになってくるのだ。

淡々と男同士の世界、スポーツでの支配・被支配の関係、母と息子、兄と弟の確執、そして権力と孤独が描かれる。分かりやすい娯楽映画ではないので、物足りないという感想もあるだろう。しかし、優れて抑制的な演出は、役者たちの存在感を際立たせている。現実に起きた事件という重みと禁欲的な映像が、人間の闇の深さを浮き彫りにしている。

『カポーティ―』レビュー

原題:Foxcatcher
製作年:2014年
製作国:アメリカ
配給:ロングライド
上映時間:135分
監督:ベネット・ミラー
脚本:E・マックス・フライ、ダン・ファターマン
撮影:グレッグ・フレイザー
美術:ジェス・ゴンコール
音楽:ロブ・シモンセン
キャスト:スティーブ・カレル、チャニング・テイタム、マーク・ラファロ、バネッサ・レッドグレーブ、シエナ・ミラー

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