「アメリカン・スナイパー」クリント・イーストウッド

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戦場におけるスナイパーという存在は、とても映画的な存在なんだなぁとあらためて思った。つまり覗き続ける男なのだ。イラクのファルージャで、自爆テロを行うような母親や少年の行動をライフルスコープで覗き続ける。それはヒッチコックの「裏窓」の双眼鏡で覗きつづける男であり、彼だけが知りえる真実を特権的に見ることが出来る特権的見者なのだ。双眼鏡やスコープで特権的に切り取られた世界が彼の戦場での現実となる。撃つか撃たないかをスコープで覗きつつ、生と死の究極の選択をする。それは映画という特権的時空間を操作できるクリント・イーストウッド自身でもある。

4度にわたる戦場への派兵とアメリカの家庭での美しき妻や子供との現実とのギャップがこの映画の肝だ。やや気になるのは、戦場でライフルを構えながら妻と携帯電話で会話するくだりだ。いくら携帯電話が手軽になったからといっても、戦場にまで持ち込むのだろうか。しかもプライベートな会話をするために。映画的創作なのか、現実的リアルなエピソードなのか。戦場での電話中の突然の敵からの攻撃は、電話先での身ごもった妻を不安にさせる。戦場に置き捨てられた電話から遠く離れたイラクの銃撃音が聴こえる。日常と戦場の狂気が電話を通じてつながる。世界は離れていてもつながっている。だから、彼はアメリカの平和な家庭に戻ってきても、イラクの戦場を忘れることが出来ない。そのグローバルな空間の広がりの同時性と混乱。空からの映像と無線を使った情報のやり取り、情報がきめ細かく飛び交う現代の戦場を的確に描いている。イラク人との現実的な接触があまりないまま、スコープを通じた特権的視覚情報で“伝説”になった男は、高台の特権的な場所から現実のリアルな戦場の街へと降りていく。映像的虚構性から肉体的リアリティへ。アルカイダの重要人物を殺害するために“伝説男”は、危険を冒して接触しようとする。後半はイラクとアメリカの名狙撃手同士の戦いが展開される。そのへんはきっと、映画的な虚構なのだろう。その名狙撃手を撃つために、彼らは敵の兵士たちに囲まれ危うく命を落としそうになる。

彼は愛する妻から、なんのために再び戦場に行くのかと問われ続ける。アメリカの正義のため、「野蛮な狼から羊を守る番犬の役割」と父から教えられた物語は本当に正しいのか。彼自身もなぜ戦場にわざわざ殺しに行くのかと自らに問い続ける。撃たれた友の復讐なのか、アメリカの正義なのか、自分の虚栄心なのか。伝説と言われ続けた男の悩みが描かれる。

虚構の物語なら、最後の戦闘で命を失うところだろう。しかしこの映画は、現実のアメリカ軍の狙撃手であるヒーローの人生を描いている。だから、極端なことは描けない。ラストの終わり方は、クリント・イーストウッドにしてはすんなり終わらせた方だろう。現実の悲劇があるからこそ、幸福な家庭の場面のままで終わらせている。あえて悲劇は再現しない。そして、現実のニュース映像が流れてきて、無音のスタッフロールとエンドクレジットで終わる。虚構化をとことん抑制ししている。戦争の英雄を過度に誇張していない。だから好戦映画でも反戦映画でもない。イラクの戦場とアメリカ日常のギャップに苦しむ男の物語をイーストウッドらしい距離をもって冷めた目で描いている。そこが面白くもあり、物足りなくもありという映画だ。


原題:American Sniper
製作年:2014年
製作国:アメリカ
配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:クリント・イーストウッド
原作:クリス・カイル、スコット・マクイーウェン、ジム・デフェリス
脚本:ジェイソン・ホール
撮影:トム・スターン
キャスト:ブラッドリー・クーパー、シエナ・ミラー、ルーク・グライムス、ジェイク・マクドーマン、ケビン・ラーチ、コリー・ハードリクト、ナビド・ネガーバン、キーア・オドネル

☆☆☆☆4
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ジャンル : 映画

tag : 戦争 ☆☆☆☆4

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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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