「かたみ歌」朱川湊人(新潮文庫)

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2005年『花まんま』直木賞受賞作家の朱川湊人の小説を初めて読んだ。ノスタルジック・ホラーが得意だと言われている作家だが、本書はまさにその通りの短編連作集。

「面白いものですね、世の中というものは。日々誰かが去り、日々誰かがやってくる。時代も変わり、流行る歌も変わる・・・けれど人が感じる幸せは、昔も今も同じようなものばかりですよ」


昭和40年代半ばの「アカシア商店街」が舞台。その商店街の古本屋「幸子書房」の老主人が小説の最後につぶやく。

東京のJR・私鉄沿線の小さな駅前はどこも似たような街並みである。駅前にはささやかなアーケード商店街がある。今は昔ながらの商店街も廃れてしまっているのかもしれないが、私の学生時代はどこも似たような商店街があった。喫茶店やスナック、酒屋に八百屋や肉屋に魚屋、薬屋や本屋、洋装店に金物雑貨店に電気屋、そして総菜屋やラーメン屋やそば屋、定食屋などなどの飲食店。この小説に出てくる「アカシア商店街」もそんな場所だ。どこか懐かしい商店街。

各短編を通じて重要な目撃者・相談者、そして最後には主役の一人にもなる古本屋「幸子書房」の老主人。商店街のテーマ曲「アカシアの雨がやむとき」をいつもかけているレコード店「流星堂」、さらに酒屋のクニちゃんやスナック「かすみ草」のママなど商店街の人々や近所に越してきた住人などが登場する。

そして必ず不思議なことが起こる。幽霊(ゴースト)が登場するのである。商店街のはずれにある古いお寺の覚智寺の石灯籠には、現世と黄泉の国をつなぐ出入り口があるという言い伝え。京都の寺にもそのような言い伝えの井戸があった。かつての街には、そんな異界の入り口があり、不思議な闇や影があった。今はどこも明るくなりすぎて、のっぺらぼうな街になってしまった。人の息遣いのあるところに闇がある。そこには死があるはずだ。しかし、死は遠く遠くに追いやられ、墓地も郊外へと移ってしまった。

幽霊の存在とは結局は、死を感じるという感性である。街角やアパートや路地にひっそりと佇む死の影。それは決して怖いものではなく、これまでの街の歴史なのだ。多くの死を抱え込んで、街はある。いくら明るくきれいに作り変えても、死はその土地の深い深いところで眠っている。そんな死者たちとともに私たちが今あることを、あの大震災は教えてくれた。死者を忘れるな。メメントモリ。これがノスタルジックホラーのメッセージだ。ほのぼのとあたたかい気持ちになるホラー小説である。山田太一の「異人たちとの夏」や重松清の「流星ワゴン」などのノスタルジックホラー小説に連なる懐かしくせつない幽霊たちとの邂逅の物語である。


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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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