「愛して飲んで歌って」アラン・レネ

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2014年に亡くなったアラン・レネ監督、91歳の遺作となったこの作品、実に軽やかで自由な人間喜劇になっている。これが遺作なのかと驚く。なんてチャーミングな最後の作品だろう。アウシュビッツ収容所のドキュメンタリー「夜と霧」で注目され、「ヒロシマ・モナムール(二十四時間の情事)」で原爆投下の広島で戦争と忘却についての映画を撮り、ヌーボー・ロマンのロブ・グリエの世界を過去と現在の時間が交錯する迷宮のような映画「去年マリエンバートで」で一躍有名な映画監督になった。「戦争は終わった」「ミュリエル」など、アラン・レネ監督作品をもう一度、通して見直したくなった。

晩年は過去の観念的な映画に比べて、軽やかな喜劇を撮るようになったアラン・レネ、「風のそよぐ草」も観客を煙に巻くような風変わりな映画で面白かった。そういう意味では、この遺作もその延長にあると言えよう。書き割りの簡素なセットの前での3組の老カップルの会話劇である。しかも主役とも言える余命いくばくもなく、みんなに心配されるジョルジュという男は一切登場しない。ジョルジュの死をめぐって、みんなが嘆き、心配し、過去に関わった元妻も含めた女性たちが彼のために世話を焼く。それによって、それぞれのカップルに微妙な波風が起きてくる。3組の男女しか出てこない。映像はその3組の家の前の庭だけだ。一部、家の中も出てくるが、ほとんどは同じ場所で会話が展開される。演劇の台詞の練習も突然始まるが、夫婦や友人たちの会話が繰り広げられるだけだ。ある夫婦の16歳の娘の誕生日パーティーがステージを組んでバンド演奏もある賑やかなものになるのだが、それは映像では見せない。音と台詞だけだ。見せないことで想像させる。時々挿入されるのは、車で移動する風景であり、人気バンド・デシネ(フランス漫画)作家ブルッチによる家のイラストであり、そのイメージをそのままセットにした書き割りに役者たちが登場する。いたってシンプルな映像表現。安上がりでもある。

ジョルジュは最後まで登場しないが、死んで墓の前に集まるところに、1組の夫婦の娘が登場する。しかもジョルジュは病気のガンで死んだのではなく、水難事故らしい。なんと人を喰った喜劇だろう。死の間際までもジョルジュは好き放題。次々と女たちを旅行に誘い、みんなに心配され、される男。そして、好きなことをとことんやって、コロッと死んでしまう。何という潔さだ。これはアラン・レネ自身の理想だったのかも知れない。戦争と忘却、あるいは時間と意識、フィクションや幻想と現実などにこだわってきたアラン・レネが最期にたどり着いたのは、「人生という物語をとことん楽しもう」という人間賛歌だ。

ラストの娘が墓に差し出す写真が気になってネットで調べたのだが、アラン・レネの写真集の中の一枚らしい。その写真集に文章を書いているのが、「戦争は終わった」で脚本を書いているホルヘ・センプルンだそうだ。骸骨のようなその「死そのもの」の写真は、レネ自身だったのか?レネが追求してきた「死をめぐる何か」なのか。謎のカットを残して、映画は終わる。

原作は英国の戯曲家アラン・エイクボーンの「お気楽な生活」。アラン・エイクボーンの戯曲の映画化は、『スモーキング/ノースモーキング』(93)『六つの心』(06)に次いで3作目ということだ。このアラン・レネの遺作は、ベルリン国際映画祭で通常なら革新的な若手に与えられるアルフレッド・バウアー賞に輝いたそうだ。

アラン・レネの軽やかで若々しい自由なる精神に感動した。

「風にそよぐ草」レビュー

原題:Aimer, boire et chanter
製作年:2014年
製作国:フランス
配給:クレストインターナショナル
上映時間:108分
監督:アラン・レネ
製作:ジャン=ルイ・リビ
製作総指揮:クリストフ・ジョーフロイ
原作:アラン・エイクボーン
脚本:ロラン・エルビエ、アレックス・レバル
撮影:ドミニク・ビューレル
美術:ジャック・ソルニエ
衣装:ジャッキー・ブディン
音楽:マーク・スノウ
キャスト:サビーヌ・アゼマ、イポリット・ジラルド、カロリーヌ・シオール、ミシェル・ビュイエルモーズ、サンドリーヌ・キベルラン、アンドレ・デュソリエ、アルバ・ガイア・クラゲード・ベルージ、ジェラール・ラルティゴ

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