「インヒアレント・ヴァイス」ポール・トーマス・アンダーソン

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『マグノリア』『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『ザ・マスター』と重厚で複層的な作品で定評のあるポール・トーマス・アンダーソンの最新作である。原作はトマス・ピンチョンの『LAヴァイス』。トマス・ピチョンは読んだことがない。なかなか難解な小説を書くとも言われている。それで、この作品が難解かと言えば、そうでもない。わりと軽いコメディタッチの探偵ものだ。とはいっても、主人公はマリファナばかり吸っているいい加減なLAのヒッピー探偵で、次々といろんなヘンテコな人物が登場し、ストーリーは分かりづらく、どこまでが現実にあったことなのかよくわからない感じもある。その分からないままに、個性的な役者の面々や不条理なそれぞれの描写を楽しめばいいのだと思う。僕は結構楽しめた。

時代は1970年のロサンゼルス。海辺に住む私立探偵のドック(ホアキン・フェニックス)の前に突然現れた元恋人のシャスタ(キャサリン・ウォーターストン)は、そもそも夢のような存在だ。建物と建物の間に海がわずかに見える。映像は部屋などの閉じられた空間が多い。不動産王で大富豪ウルフマン(エリック・ロバーツ)の愛人になった元カノのシャスタは、カレの妻とその恋人が不動産王の拉致・監禁を企て精神病院に入れようとしているから「助けて、ドック」とやってくるのだ。なんだかわけのわかんない依頼だ。その迷宮のような謎の事件に探偵ドックは巻き込まれ、殺人事件の犯人にされたりしていくのだ。なんといってもLA市警ビックフット警部をジョシュ・ブローリンが怪演。凍ったチョコバナナをいやらしく舐めたりするのが大好き。「もっと。パンケーキ!」と訳のわからない日本語で怒鳴ったりもする。砂漠のような荒野に立つ怪しげな風俗店や巨大な土地開発の利権、ドラッグまみれの歯科医師やイカレたヒッピー娘。サイケデリックなパーティーや謎の豪邸などなど当時の風俗が描かれる。

インヒアレント・ヴァイス(Inherent Vice)とは「内在する欠陥」、保険用語で「避けられない危険」という意味だそうだ。探偵ドックは、ダラダラといろんな依頼を引き受けつつ、自らが落とし穴に落ちていくようだ。なぜ彼は事件を追いかけるのか。マリファナ漬けのイカれた男だが、元恋人との雨の日の美しきピュアな思い出が想起される。マリファナがなくなって探し求めて、コックリさんのような占いで雨の中を駆け出す二人。せつなくなるような愛しき夢のような思い出。

ポール・トーマス・アンダーソンはポルノ業界を描いた『ブギーナイツ』なんていう風俗映画もある。ポルノ業界の個性的な人々の群像劇だったが、こちらもポルノからビデオへと移り変わる時代の変化に翻弄される人々を描いていて面白かった。「パンチドランク・ラブ」も不条理な奇妙な映画だった。この訳の分からない探偵ものもPTAらしい一筋縄ではいかない映画だ。ただ、どこか憎めないヒッピー探偵が、過去の恋人への思いと時代の変わり目のなかで右往左往する姿は、なんともいじましく、好ましく思えるのだ。

原題:Inherent Vice
製作年:2014年
製作国:アメリカ
配給:ワーナー・ブラザース映画
上映時間:149分
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
製作:ジョアン・セラー、ダニエル・ルピ、ポール・トーマス・アンダーソン
製作総指揮:スコット・ルーディン、アダム・ソムナー
原作:トマス・ピンチョン
脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
撮影:ロバート・エルスウィット
美術:デビッド・クランク
衣装:マーク・ブリッジス
編集:レスリー・ジョーンズ
音楽:ジョニー・グリーンウッド
キャスト:ホアキン・フェニックス、ジョシュ・ブローリン、オーウェン・ウィルソン、キャサリン・ウォーターストーン、リース・ウィザースプーン、ベニチオ・デル・トロ、マーティン・ショート、ジェナ・マローン、ジョアンナ・ニューサム

☆☆☆☆4
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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