「幕が上がる」平田オリザ(講談社文庫)

本広克行監督がももいろクロバーZで映画化して話題になっているが、原作の平田オリザの初小説を読んでみた。この高校演劇部の青春小説が結構いいのだ。僕はもともと平田オリザの世界に惹かれている。声を張り上げて、絶叫調だった小演劇の世界を平田オリザがガラリと変えたとも言える。日常そのままの口語口調でまったりと始まる彼の「静かな演劇」は、日常そのものの中に劇的な要素を抉り出せることをあらためて気づかせてくれた。

新劇へのカウンターカルチャーとして始まった小劇場運動。アングラ演劇とも言われた第一世代には、寺山修司、鈴木忠志、蜷川幸雄、唐十郎、佐藤信、太田省吾、串田和美などがいる。別役実・清水邦夫などもその世代だ。今でも活躍している錚々たるメンバーであり、日本の新たな演劇を生み出した魅力的な演劇人たちである。唐十郎の赤テントで小林薫や根津甚八の祝祭的空間に熱狂し、佐藤信の黒テントの世界にも心が躍った。寺山修司の仕掛けに驚かされ、太田省吾の「水の駅」は今でもあの衝撃は忘れられない。この世代の最後のほうの演劇に僕は演劇の面白さを教えてもらった。

続いて1970年代の第二世代のつかこうへいや山崎哲「転位21」などは、まさに僕が学生時代にリアルタイムで劇場通いをした劇団だ。つかこうへいのねじれた笑いの痛快さや、三面事件を扱う山崎哲の芝居に夢中になった。

1980年代には野田秀樹の「夢の遊眠社」や鴻上尚史、渡辺えり・木野花・如月小春・などが登場し第三世代は「小劇場ブーム」を生み出し小演劇運動は活況を呈した。その後に登場したのが平田オリザなどの第四世代、「静かな演劇」と呼ばれるものだ。非日常的祝祭空間から日常へ。NYLON100℃のケラリーノ・サンドロヴィッチや大人計画の松尾スズキなどもこの世代に当たる。長塚圭史、本谷有希子、村上大樹などは第五世代と呼ばれ、松尾チルドレン、ケラチルドレンと呼ばれているそうだ。

こんな風に演劇は世代ごとにいろいろと語られるが、それぞれはみんな違う。簡単に世代で傾向を語れるものではない。
平田オリザが始めた「静かな演劇」は、大きな仕掛けも異世界も展開しない。日常の延長の会話劇があるばかりだ。それでも彼の演劇は魅力的だし、彼の講演も聴きに行ったことがある。平田オリザに密着したドキュメンタリー想田和弘監督の『演劇』も興味深かったし、ロボット演劇も新たな試みとして面白い。さらに、彼の著作『わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か』もとてもいい本だ。コミュニケーションの重要性が語られながら、「空気を読め」という暗黙の同調圧力。「違うこと」「わからない」から始まる関係性は本当に今の時代に必要な考え方だ。

この高校演劇部の青春小説も、その人間同士の関係の前提となる「わかりあえないこと」から始まっている。

演劇部の高校生たちが少しずつ変わり始めるところがいい。東京で小劇場で女優だった吉岡先生、転校生の中西さん、孝文先輩との初デートや同級生のガルルやユッコ、そして部長として演出をすることになるヒロイン、高橋さおり。誰もが等身大で真剣に悩んで生きている。決して大袈裟な事件が起きるわけではないのに、とてもジンとくるのだ。「銀河鉄道の夜」を上演することでつけ加えた台詞などもいい。そばにいてつながっているけれど、遠くに離れている関係。「わかりあえないこと」を知りつつ、それを受け止めながらもそれぞれがそれぞれの思いで生きていこうとする姿がなんだかとても清々しく応援したくなる。不条理なことを受け入れること。まだ何も成し遂げてはいないけれども、少しずつ何かをつかみかけている女子高生たちの姿はとてもまぶしく美しい。多くの若い人に読んでもらいたい小説だ。

「わかりあえないことから」平田オリザのレビュー

『演劇1&2』レビュー
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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    9,「エリックを探して」
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