「海街diary」是枝裕和

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美しく丁寧に撮られた映画です。映画的記憶にも満ち溢れて、どこかで見たことのあるシーンばかりで凡庸とも言えるのかもしれないけれど、その反復される凡庸さの中にあるささやかなものへの愛情、その映画的美しさに感動してしまいます。僕はこの映画、好きです。

丁寧に生きるということは手間のかかること。生活の小さな一つ一つのことに大切に丁寧に心を砕くということは、生き方そのものの哲学、メッセージでもあります。食べること、料理を作ること、漬物を作ること、梅の実を毎年獲って梅酒にすること、障子の破れたところを直すこと、食べる姿勢をちゃんとすること、仏壇にお供えすること、手を合わせること、お墓参りに行くこと、法要をすること、子供たちの背の高さを柱に印をつけること、家を大切にすること、桜を愛でること、浴衣を着て花火に行く夏、好きな場所に大切な人と行くこと、そしていつもの家族のケンカまでもが愛おしく大切に描かれ、演じられている。そのことに感動する。

料理を作るシーン、食べるシーンがまず多い。生シラス丼、シラス・トースト、シーフード&ちくわカレー、漬物、梅酒、ジャガイモサラダなど買物をし、料理を作り、食べる場面が何度も登場する。海猫食堂のアジのフライも美味しそうだ。丁寧に生きることとは、ちゃんと食べること。手間暇をかけて作ることだ。生シラスとカレー、梅酒には家族の記憶が共有されている。父と母、おばあちゃんの記憶。それは『歩いても歩いても』など、「家族」を描き続けてきた是枝作品ではいつも丁寧に描かれている。すっかり有名になったフード スタイリストの飯島奈美の仕事だ。

そして、どのシーンもかつて観た映画の記憶が思い出されてくる。駅のホームでの別れのシーンは映画の定番だし、駅への通学路、街を見下ろせる場所での絶叫や桜のトンネル、自転車の二人乗り、夏の浴衣と花火、砂浜での散策など、どこかで観た映画の反復そのものだ。それなのに、そのシーンの一つ一つがなんだか観ていて愛おしいのだ。是枝監督の登場人物たちへのやさしい眼差しだろうか。

小津安二郎の映画との共通点は多くの人が指摘しているようだが、同じ鎌倉ということもあって、僕もまた小津映画の正当なる後継者としての是枝監督を強く感じた。山形での父の葬式で煙突の煙を家族で眺めるシーン。鎌倉の古い日本家屋の縁側。横並びの海辺のショット。そして葬式や法要の家族の喪服姿。「家族であり、家族になることの意味」を繰り返し描いてきたところは、小津安二郎と是枝裕和はよく似ている。家族であることの面倒くささと空気のように通じあう心。血のつながりだけではない家族のあり方については、是枝の奇跡的な傑作『誰も知らない』から始まって、最近作『そして父になる』までずっと追及されてきたテーマだ。家族は始まりから「家族」なのではなく、少しずつ「家族」になっていくのだ。同じものを同じ側から見続けていく目線。このチラシになっている4姉妹の写真のように。

この映画では<古い家>が姉妹たちの中心にある。家=居場所こそが、生きていく上での大切な拠り所となる。だから母親(大竹しのぶ)の突然の「この家、売れば?」の提案に、姉の幸(綾瀬はるか)は過剰な反応をする。この映画は、血のつながらない妹すずがこの家に居場所を見つけるまでの物語であり、すずは父からの3姉妹への贈り物でもあった。食べものと同じように過去から未来へと記憶をつないでいく。死者は生きているものたちの心の中で生き続け、語られることによってつながっていく。過去の振り返り映像や父の姿を出さなかったことにこの映画の成功があるのかもしれない。閉じられた家という空間と4姉妹の会話の中からしか<思い出>は語られない。観客は、彼女たちの台詞の中から想像するしかないのだ。そこに時間的な広がりを感じる。


製作年:2015年
製作国:日本
配給:東宝、ギャガ
上映時間:126分
監督:是枝裕和
原作:吉田秋生
脚本:是枝裕和
製作:石原隆、都築伸一郎、市川南、依田巽
撮影:瀧本幹也
照明:藤井稔恭
録音:弦巻裕
美術:三ツ松けいこ
編集:是枝裕和
音楽:菅野よう子
キャスト:綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず、加瀬亮、鈴木亮平、池田貴史、坂口健太郎、前田旺志郎、キムラ緑子、樹木希林、リリー・フランキー、風吹ジュン、堤真一、大竹しのぶ

☆☆☆☆☆5
(ウ)
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テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : 家族 ☆☆☆☆☆5

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紹介

言霊百神 http://futomani.jp/

おほもと http://www.oomoto.or.jp/

No title

ぼくも観てまいりました。おっしゃるとおり、まるで小津映画でした。カットとカットの連続性をあえて丁寧に排除している。アクションのうねりを求めない。散りばめたエピソードは、あえて散漫にさえ見えてしまいます。それがラストに向かって運命の糸のように集約されてゆく。これが21世紀の今、商業映画として成立するのか? それを可能にしたのが実に贅沢ななキャスティングでしょう。

Re: No title

>アマミヤユキトさま

感想ありがとうございます。是枝監督らしい作品でした。「そして父になる」などよりも理屈っぽくない家族映画で好印象でした。僕は「歩いても歩いても」も好きな映画でしたが、あの作品に連なるもののような気がしました。

この作品が商業映画として成立したのは世界で認められている是枝可監督の知名度とキャスティングでしょうね。すずちゃんも良かったですよね。そして綾瀬はるかが意外にも?良かったです。また感想をお待ちしております。
プロフィール

Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


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