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「ライオンは今夜死ぬ」諏訪敦彦

ライオン

フランソワ・トリュフォーの『大人は判ってくれない』(1959年)で監督の分身ともいうべき少年アントワーヌ・ドワネルを演じ、その後、トリュフォー映画で何度もドワネルものに出演し、ヌーヴェルヴァーグの体現者とも言えるジャン=ピエール・レオ。今や老優となったジャン=ピエール・レオと子供たちが映画を作る話。

南欧の光あふれる世界は美しいのだが、幻想性はまるでない。ただただ、ジャン=ピエール・レオの奇妙な存在感が映画を支配する。子供たちに「くそじじい」とか言われ、古い洋館に住む奇妙な男は、子供たちにつきまとわれ、リンゴを投げて「荷物を持て」と指図する。そして、職業が俳優だと聞いて、子供たちが作る映画に出演するこのになるのだ。子供たちと楽しそうにスープを飲むシーンや奇妙なタイトルにもなった「ライオンは今夜死ぬ」という歌をバスの中で子供のように歌う場面など印象的だ。この歌は、アメリカでヒットした「ライオンは寝ている」が原曲で、アンリ・サルバドールがフランスでもヒットさせた有名な曲だ。「ライオンキング」の劇中歌としても使われているので、多くの人が耳にしている曲だ。「ライオン」がジャン=ピエール・レオなのか、それとも何かの象徴なのかはよくわからないが、あまり効果的ともいえない。日常に潜む異世界とでもいうべき映画的存在であるのかもしれない。

まさに映画へのにあふれた映画である。子供たちが作る映画のように、「楽しみながら作ること」の大切さを老優は語る。自らが「死」を演じることができなくなっていた老優は、子供たちとの自然な触れ合いの中で、映画とは死も含めた人生そのものであることを受け入れる。失った最の女性との思い出は、まさに映画そのもののように美しい。幽霊として思い出の彼女も、唐突に挿入される幻想のライオンも、その場にいるようにふつうに撮られていて、その日常的過ぎる映像は、あまり気持ちが入り込めない。それでも、映画そのものである存在のジャン=ピエール・レオの奇妙さがどこか微笑ましい映画ではある。

原題 Le lion est mort ce soir
製作年 2017年
製作国 フランス・日本合作
配給 ビターズ・エンド
上映時間 103分
監督:諏訪敦彦
製作:吉武美知子、ジェローム・ドプフェール
共同製作:定井勇二
脚本:諏訪敦彦
脚本協力:久保寺晃一
撮影:トム・アラリ
美術:トマ・グレゾー
編集:マルシアル・サロモン
音楽:オリビエ・マリゲリ
キャスト:ジャン=ピエール・レオ、ポーリーヌ・エチエンヌ、モード・ワイラー、アルチュール・アラリ、イザベル・ベンガルテン、ルイ=ド・ドゥ・ランクザン、ノエ・サンピ

☆☆☆3
(ラ)

テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : 人生 幻想 ☆☆☆3

「希望のかなた」アキ・カウリスマキ

希望
(C)SPUTNIC OY, 2017

大好きなアキ・カウリスマキの新作である。前作『ル・アーヴルの靴みがき』に続いて、難民3部作にするのだという。無表情に淡々と登場人物たちが繰り広げるフィンランドの日常。時に過酷な現実を描きつつ、ユーモアと温かさを交えて、見ず知らずの人々の交流を描く。

シリアのアレッポから難民としてやってきた青年カーリド(シェルワン・ハジ)が、山田孝之に見えてしょうがなかった(笑)。たまたま乗った貨物船がフィンランド行きだったということで、夜の港に着くカーリド。石炭の山から煤まみれの黒い顔を出す。この導入は、『ル・アーブルの靴みがき』とよく似ている。また、夜の港は、『真夜中の虹』を思い出す。大きな船が旅情を誘い、世界との境い目、出入り口となる。青年は、まっすぐ警察に向かい、難民申請をするが強制送還の判決が下され、難民収容施設から逃げ出すのだ。一方、衣類のセールスマンをしていた中年男ヴィクストロム(サカリ・クオスマネン)は、飲んだくれの妻と別れ、心機一転、レストランを始める。その店のゴミ捨て場で暮らしていた逃げたカーリドが、ヴィクストロムと殴りあった末、雇われることになる。

着いたばかりのカーリドは、路上ミュージシャンにコインを恵み、警察の場所を聞いたり、難民収容所でイラン人の友が出来たり、フィンランド解放軍の右翼に殴られそうになりながらも助けられたり、厳しい境遇の中で助けあうことが繰り返される。そして、レストランオーナーになったヴィクストロムは、前の従業員を雇用し続け、難民のカーリドまで引き受けるのだ。警察からも匿って、偽造身分証まで作ってあげる。ちなみに一度は「棄てて来い」と言った厨房で飼われた犬さえも、いつの間にか飼うことを認めている。

映画では何度も音楽が使われる。音楽は人々の癒しであり、娯楽であり、ささやかな愉しみである。レストランは客を増やすため、鮨を見よう見真似で作り、日本風レストラン風を始めるが、うまくいくはずもなく、下手なコントのような感じになる。日本の音楽も流されるが、フィンランドの音楽と日本の音楽はどこか哀愁があって似ているところがある。そして、レストランはバンド演奏とダンスで客を呼ぶことに成功する。そんな時、カーリドの生き別れた妹が見つかり、カーリドはフィンランドを出て妹に会いに行こうとするが、ヴィクストロムはある計略を仕組み、無事に妹をフィンランドに呼び寄せることに成功する。

淡々と繰り返されるサポート。人は誰かのためにある。兄は妹のためなら、自分はなんでもできると言い、関わりあった人々は、決して見捨てたりはしない。右翼に襲われたり、戦争で難民になったり、家族を殺されたり、妹と生き別れになったり、生きているということは何が起きるか分からない。それでも何とか生きようとすること。そこにちょっとした人々のサポート、温かさがあれば、なんとかなるのだと思わせてくれるアキ・カウリスマキの素敵な贈り物のような映画だ。


原題 Toivon tuolla puolen
製作年 2017年
製作国 フィンランド
配給 ユーロスペース
上映時間 98分
監督:アキ・カウリスマキ
製作:アキ・カウリスマキ
脚本:アキ・カウリスマキ
撮影:ティモ・サルミネン
美術:アキ・カウリスマキ
衣装:ティーナ・カウカネン
編集:サム・ヘイッキラ
キャスト:シェルワン・ハジ、サカリ・クオスマネン、イルッカ・コイブラ、ヤンネ・ヒューティライネン、ヌップ・コイブ、カイヤ・パカリネン、ニロズ・ハジ、サイモン・フセイン・アルバズーン、カティ・オウティネン、マリヤ・ヤルベンヘルミ

☆☆☆☆4
(キ)

テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : 人生 ☆☆☆☆4

「永遠のジャンゴ」エチエンヌ・コマール

ジャンゴ
(C)2017 ARCHES FILMS – CURIOSA FILMS – MOANA FILMS – PATHE PRODUCTION - FRANCE 2 CINEMA - AUVERGNE-RHONE-ALPES CINEMA

大好きな音楽であり、その偉大なるミュージシャン、ジャンゴ・ラインハルトの伝記的映画である。僕がジャンゴ・ラインハルトの音楽を最初に聴いたのは、『ルシアンの青春』というフランス映画の音楽だった。これもナチス占領下のフランス片田舎の少年と少女の映画だった。

『ルシアンの青春』音楽「マイナー・スウィング」

このギターのリズムになんとも惹かれた。それが、ロマ(ジプシー)の音楽とスウィングジャズを融合させたマヌーシュ・ジャズと呼ばれるものである。その代表的なミュージシャンがジャンゴ・ラインハルト。速いテンポで刻むギター・カッティング、ジャズのスウィング感、ウッド・ベースやバイオリン、クラリネットなども加わり、どこか哀愁を帯びながらも、体を揺らしたくなるような軽快な音楽である。彼の音楽の影響を受けたフレンチ・アニメ『ベルヴィル・ランデブー』(シルヴァン・ショメ)というのもあった。

『ベルヴィル・ランデブー』シルヴァン・ショメ

ジャンゴ・ラインハルトは、1910年1月23日ベルギー生まれ(~1953年5月16日)。幼少の頃から家族とヨーロッパ各地を放浪してまわり、ギターやバイオリンの演奏を身につけて育ったという。

映画は1943年、ナチス・ドイツ占領下のパリで、すでに人気者となっているミュージックホールでの演奏場面がら始まる。軽快な音楽で思わず惹きこまれていく。まだ音楽が存分に楽しめたパリだが、次第にダンスも自由に踊れなくなるようになっていく。ミステリアスな美女のルイーズも登場し、映画的フィクションも盛り込まれる。ナチス占領下で迫害を受けるロマ(ジプシー)、ドイツでの演奏会を拒否して逃げるジャンゴたち。スイス国境近い村で、ナチス官僚が集う晩餐会の演奏、ナチスに追われてスイスへ亡命するジャンゴの様子などが描かれる。正直言って、映画はそれほどいい出来ではない。ルイーズとの関係も中途半端だし、戦時下のサスペンスもそれほど盛り上がらない。レジスタンスの逃亡を助けるために、仕方なくドイツ人たちの前で演奏するジャンゴたちが、テンポが速くならないよう注意を受けつつも、次第にスウィングが始まり、客たちが踊りだす場面が面白い。次第に会場が盛り上がっていくのだが、ナチス上官の「猿の音楽に惑わされるな」の一言で演奏は中止され、その後、ロマたちのテントや車などの住居が焼き払われる。音楽の力を描きつつ、それが抑圧され、迫害された時代とともに生きた天才ギタリストの人生の一断片である。まぁ、ジャンゴの音楽を存分に楽しめただけでも嬉しくなる映画である。


原題 Django
製作年 2017年
製作国 フランス
配給 ブロードメディア・スタジオ
上映時間 117分
監督:エチエンヌ・コマール
脚本:エチエンヌ・コマール
撮影:クリストフ・ボーカルヌ
美術:オリビエ・ラド
音楽:ジャンゴ・ラインハルト、ウォーレン・エリス
キャスト:レダ・カティブ、セシル・ドゥ・フランス、ベアタ・パーリャ、ビンバム・メルシュタイン、ガブリエル・ミレテ、ジョニー・モントレイユ、バンサン・フラド、アレックス・ブレンデミュール、グザビエ・ボーボワ、パトリック・ミル

☆☆☆3
(エ)

テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : 音楽 戦争 ☆☆☆3

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ヒデヨシ

Author:ヒデヨシ
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
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映画ベスト10 2009~2017年
2018年ベスト10
<洋画>
    「スリー・ビルボード」
    「正しい日、間違えた日」(2015)
    「希望のかなた」
    「顔たち、ところどころ」
    「ラブレス」

<日本映画>
    「万引き家族」
    「寝ても覚めても」
    「きみの鳥はうたえる」
    「モリがいる場所」
    「カメラを止めるな」


2017年ベスト10
<洋画>
    「パターソン」
    「動くな!死ね!甦れ!」(1989)
    「誰のせいでもない」
    「ありがとう、トニー・エルドマン」
    「オン・ザ・ミルキー・ロード」
    「パーソナル・ショッパー」
    「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
    「マリアンヌ」
    「婚約者の友人」
    「セールスマン」

<日本映画>
    「散歩する侵略者
/予兆 散歩する侵略者」
    「三度目の殺人」
    「南瓜とマヨネーズ」
    「光(大森立嗣)」
    「息の跡」
    次点「彼女がその名を知らない鳥たち」
    次点「幼な子われらに生まれ」
    次点「バンコクナイツ」


2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
    マイ・ファニー・レディ
    キャロル
    シング・ストリート 未来へのうた
    リザとキツネと恋する死者たち
    グッバイ・サマー
    サウルの息子
    マジカル・ガール
    ブリッジ・オブ・スパイ
    手紙は憶えている
<日本映画>
    淵に立つ
    クリーピー 偽りの隣人
    海よりもまだ深く
    ふきげんな過去
    SCOOP!
    永い言い訳
    オーバー・フェンス
    ディストラクション・ベイビーズ
    葛城事件
    湯を沸かすほどに熱い愛
    次点この世界の片隅に


2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
    ソニはご機嫌ななめ

<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
    百円の恋
    この国の空


2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
    罪の手ざわり
    ウルフ・オブ・ウォールストリート
    ジャージー・ボーイズ
    インサイド・ルーウィン・デイヴィス
    6才のボクが、大人になるまで。
    フランシス・ハ
    ウォールフラワー
    ある過去の行方

    <日本映画>
    そこのみにて光輝く
    ニシノユキヒコの恋と冒険
    紙の月
    Sventh Code
    私の男


      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
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